荒川洋治ほか◆ことばの見本帖
散文は、それをうけとる人が理解できるように文法的な一定のルールをもってつづられる。すばやく的確に、意味を伝達することに目的があるので理屈にあった書き方を選ぶのだ。 いうならば散文は、自然発生のものではなく、ある時点で「つくられたもの」、人間が近代社会とつながるために編み出された表現形式である。「つくられた」ものは不自然だとみるならば、散文は、異常なものである。〔…〕 いっぽう詩は、個人の感覚や思考をそのままのことばで表示する。 貧相で、奇妙で、ぶかっこうなことばでもいい。他の人には不思議に思われてもいい。個人の世界をなくしてしまったら、表現の価値はないと考えるからである。 個人の詩であるにもかかわらず、散文では行けない世界にふみこんで、輝きをはなつものもある。数は少ないが、それがすぐれた詩ということになる。 ――荒川洋治「詩と光景」 |
◆ことばの見本帖|荒川洋治/加藤典洋/関川夏央/高橋源一郎/平田オリザ|岩波書店|ISBN:9784000271066|2009年07月
★★★
《キャッチ・コピー》
詩と光景 アンソロジー(荒川洋治)/「小説を読む」とはどういうことか─夏目漱石『坊っちゃん』に即して(関川夏央)/「次の千年の文学」のための文章(高橋源一郎)/さようなら、『ゴジラ』たち─文化象徴と戦後日本(加藤典洋)/演劇のことば─全十幕(平田オリザ)
《memo》
「ことばのために」シリーズ全5冊の別冊として、アンソロジーならびに執筆した本の延長で考えたことを各人がまとめたもの。一読に値する。
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