高野秀行◆メモリークエスト
英語はできないみたいだが、走り出すと「チャイナ? ジャパン?」と訊いてくる。 「ジャパン」 「ナゴヤ?」 ジャパンといえばナゴヤ。このあとタクシーに乗ったり、店員と話したりするたびに、このやりとりが繰り返されることになる。もちろん、すべて英雄ストイコビッチがいるからだが、それにしても日本の首都が名古屋になったような錯覚に陥る。 東京と大阪・京都に複雑なコンプレックスを持っているという名古屋人がセルビアに来たら、さぞかし愉快なことだろう。 古い石畳の道を路面電車をかわしながら、タクシーはガタガタと旧市街に入っていく。想像していたよりベオグラードはずっと洗練された都市だが、旧市街はやはり道が細く家がごちゃごやと密集している。 「これはいけるかも」と私は生唾を飲み込んだ。 |
◆メモリークエスト|高野秀行|幻冬舎|ISBN:9784344016552|2009年04月
★★★
《キャッチ・コピー》
あの日、あの時、あの場所で消えたあなたの記憶、探しにいきます。「探索のプロ」を自任する著者は、縁もゆかりもない赤の他人のために、不安を抱きつつも世界へ飛び立った。時空を超えた空前のドラマが、いま始まる。
《memo》
テレビではよくある企画だが、読者の一期一会の思い出の人物に、読者に代わって会いに行くというドキュメント。上掲は、アメリカ留学で知りあい、その後音信不通になった男を捜しに、ユーゴの首都ベオグラードへ。かつて尋ね人ボブはユーゴスラヴィア人だった。だが今はセルビア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア、モンテネグロ、スロベニアに分かれている。ベオグラードは当時いろいろな民族が集まっていたにちがいない。果たして彼は今もここに住んでいるか?
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