北方謙三◆三国志(10の巻)
まだ、死んでいない。死なないのではないか。ほとんど恐怖に近い気持で、張飛はそう思った。 躰の中で、またなにかが暴れた。俺の命が暴れているのだ、と張飛は思った。人並みはずれて、頑丈な躰だった。だから、命を閉じこめて、出ていかないようにしている。それも、長くはないだろう。 充分に生きた。思いはいくらも残っているが、力のかぎり生きた。 喜び、悲しんだ。いい兄弟も、友も、そしていい妻もいた。 眠いような気がした。これが、多分死なのだ。 眠りに似ているではないか、と張飛は思った。 |
◆三国志(10の巻)|北方謙三|角川春樹事務所|ISBN:9784894569638|2002年03月発売 |文庫
《キャッチ・コピー》
英雄たちの見果てぬ夢が戦を呼ぶ、北方三国志波瀾の第十巻。
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