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2009.12.05

ノンフィクション100選★全国アホ・バカ分布考|松本修

Nonfiction100

1993

「それで、百田君にとっては『アホ』と『バカ』、一体どっちが偉大なの?」

即座に百田君は言い放った。

「それはもう、『アホ』に決まってますよ。『バカ』も偉大ですが、やはり『アホ』が究極の表現であるという地位は揺るがないでしょう」

「なに言ってるんだい。『バカ』こそ、婉曲的な言い回しを求め続けた奥床しく、かつ知恵にあふれる日本人の、究極の到達点とも言えるじゃないかそう考えると、『アホウ』はちょっと安直すぎるよ」

日沢君は、ついつい「バカ」に加勢した。〔…〕

「ちょっと待った。『アホ』と『バカ』の偉大さをくらべてる場合やない!」

私はふたりにクイズを出した。

「その作品の中に、『アホウ』も『バカ』もいっぱい使って、いやそれだけでない、民衆のあらゆる卑語・俗語をいっぱい使って、世界に冠たる文学世界を樹立した作家が、日本にただひとりだけいる。それは誰やと思う?」

★全国アホ・バカ分布考――はるかなる言葉の旅路|松本修|太田出版|ISBN978487233116519938

 ♪ ベッドのまわりになにかもも脱ぎ散らして 

週末だけの秘密の部屋 おどけて……。

 と円広志の作詞作曲の「ハートスランプ・二人ぼっち」で始まる朝日放送(ABC)制作の「探偵!ナイトスクープ」という番組を、ビデオにとって土曜か日曜の昼食時にビールを飲みながら見るという習慣はサラリーマンの頃からである。

 「探偵!ナイトスクープ」は19883月から関西ローカルでスタートした。翌19897月のこと。以下、松本修『探偵!ナイトスクープ――アホの遺伝子』(2005)から……。

――「朝日放送の採用面接が行われた。数日にわたって第一次面接が行われるが、その初日、面接官を務めた何人もの社員が私に報告に来た。

「面接会場で、ものすごいことが起きてますよ! 学生たちの誰もかれもが、朝日放送のいちばん好きなテレビ番組として、『探偵-ナイトスクープ』をあげてます!」

まったく思いもかけないニュースだった。その驚きは、いっきょに全社を駆けめぐった。当時、朝日放送はさまざまな番組をヒットさせており、視聴率の上では「ナイトスクープ」はきわめて凡庸な番組のひとつに過ぎなかったからである。しかし新しい面白さが噴き出し始めていた。それが感覚の鋭い、若い世代にヒットしたのだ。

 本書松本修『全国アホ・バカ分布考――はるかなる言葉の旅路』(1993)は、「この世のあらゆる謎や疑問を徹底的に究明する」ことをモットーとする娯楽番組の、こんな一通のハガキから始まる。

「私は大阪生まれ、妻は東京出身です。二人で言い争うとき、私は『アホ』といい、妻は『バカ』と言います。耳慣れない言葉で、お互い大変に傷つきます。ふと東京と大阪の間に、『アホ』と『バカ』の境界線があるのではないか?と気づきました。地味な調査で申しわけありませんが、東京からどこまでが『バカ』で、どこからが『アホ』なのか、調べてください」

 こうして番組プロデューサー松本修の“はるかなる言葉の旅路”が始まるのである。全国のアホ・バカ表現の分布調査という壮大な試みへと発展。各市町村へのローラー作戦、古辞書類の渉猟……。とりわけバカ・アホの語源追及は読者を知的興奮に導くのである。以下、結論部分を抜く。

――「バカ」は白楽天の諷諭詩「君見ずや馬家の宅は尚お猶お存し、宅門題して奉誠園と作すを」、ここからきている。奢りたかぶった末に没落した馬さんの家。馬家のようなやつという意味で「バカモノ」が生まれた。つまり「バカ」は本来、人の徳、人としてあるべき精神の美しさについて問いかけた言葉であった。

――「アホ」は、もとは中国・江南の「阿呆(アータイまたはアーガイ)」。「呆」という字の意味は「ぼんやり。間の抜けていること」で、この字の頭に親しみの「阿」がついて、「呆ちゃん」つまり「おバカさん」のこと。中国の江南から日明貿易の船でやってきた。

 この発見を“珠玉の学術書”にすべきか、“商業主義的一般書”にすべきか、悩んだ末、探偵たちの試行錯誤をすべて画面にさらけ出しつつ、ただひとつの真実に迫っていこうとする『探偵! ナイトスクープ』の番組作りとまったく同じ方法論で本書を書き上げたという。

で、当のテレビ番組のほうだが、最近は、夜になって、放映された3本の内容を思い出せるかどうか試してみる。ん、思い出せない。ほとんどが見た後すぐに忘れている。それが長寿番組の秘訣なのかもしれない。

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