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2009.12.27

ノンフィクション100選★おんりい・いえすたでい'60s |山崎正和

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「ファイトで行こう、リポビタンD」(王貞治、リポビタンD)「元気はつらつ」(オロナミンCドリンク)「太陽を飲もう」(エスカップ)「暑いといったら罰金」(黒柳徹子、ビオタミン)「アスパラで生き抜こう」(弘田三枝子、アスパラ)「タンパク質が足りないよ」(谷啓、マミアン)「飲んでますか」(三船敏郎、アリナミン)「丈夫で長持ち」(渥美清、エペロン)

当時、家庭でも通勤の駅頭でも、忙しいサラリーマンが、カフェインとアルコールの混った栄養剤のアンプルを切る風景が朝夕に見られたものです。〔…〕

日本人がこのようなクスリを異常なほど愛用したのは、もちろん肉体的な疲れを癒すためもあったでしょうが、それ以上に、頭上にのしかかる、なにやら名状しがたい鬱屈を吹きとはす手段であったような気がします。

あたかもそれを裏づけるかのように、「不快指数」と「不定愁訴」という二つの言葉が、同時代の日本人の心を捉えたのです。

そして、1960年代の社会のあり方、とりわけその社会心理の状態を振返ると、こうした流行語がけっして偶然の産物ではなかったことは明らかです。

人びとは、一方で暗く鎖された内面状態に悩み、他方、それを明快に表現できない、二重のもどかしさにいらだっていたのですが、それは明らかに理由のないことではなかったのです。

★おんりい・いえすたでい'60s |山崎正和|文藝春秋|197711

室町とか幕末とか“好きな時代”というのがあって、歴史小説など特定の時代のものを愛読したりする。私の場合は、日本の青春期である“1960年代”であり、セピア色のアメリカの“1920年代”である。

本書山崎正和おんりい・いえすたでい'60s』は、1977年に「週刊ポスト」に連載された“昨日の10年”を歴史として眺めてみるという趣旨の“現代史”である。週刊誌や新聞の記事を題材にしており、ノンフィクションの範疇にはいるかどうか分からないが、読み物として抜群におもしろい。

見出しをすこし並べてみよう。――「戦後は終った」の流行、気分の“失禁状態”、ソフトな煙草とライトな酒、ながら族とついで族、「猛烈社員」と「サラリーマン社長」、キザがムキにならない時代、「生がい論」と「脱サラ・ブーム」、“イヴニング”文化の欠落、口べたの氾濫、「経済学」から「経営学」への転換。こういう時代が私の青春期と重なる。

「一度訪れた町の地理にしても、煙草屋の看板や郵便ポストの位置によってそれを記憶するまえに、もう一度歩けば思い出す全体の印象によって覚えることができます。ひとつの時代についても同じ事情があって、そこには『生産量』や、『死亡率』や、さまざまな『事件』とは別に、全体を覆って、それらに意味を与える明瞭な雰囲気というものがある」と著者は書く。「それは、時代の気分と呼んでもよいものである」。

 山崎正和といえば丸谷才一との歴史、日本語、読書等に関する対談の私は熱心な読者だった(両者の対談は通算100回をはるかに超えるという)。

 オンリーイエスデイといえば、ビートルズの映画「『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!(1964A Hard Day's Night)を、当時神戸の「元映」という映画館で見たとき、客席の女の子たちが総立ちで画面にむかってハンカチをふって、ワアワアさわいでいた光景の記憶がある。なおビートルズが東京・日本武道館で公演したのは、1966年である。

 同じく週刊誌や新聞の記事を題材に1960年代を描いたものに、赤塚行雄『戦後欲望史――黄金の60年代篇』(1984)がある。本書は「混乱の4,50年代篇」「転換の780年代篇」の全3冊。戦後40年の歴史を「欲望」という視点から描いて人間のホンネに迫るという、一種の奇書である。

 もう一つの好きな時代、アメリカの1920年代については、大原寿人『狂乱の1920年代――禁酒法とジャズ・エイジ』(1964)が格好の入門書であった。大原寿人は早川書房時代の常盤新平の変名だと思われる(常盤新平は、この時代を描いた著書や訳書が多い)。

また『おんりい・いえすたでい'60sで触れられているアメリカの新聞記者F・L・アレン著・藤久ミネ訳『オンリー・イエスタデイ――1920年代・アメリカ』(1975)の原著は1931年に出版されており、文字どおりつい昨日のことである。

イザベル・レイトン編・木下秀夫訳『アスピリン・エイジ――19191941(1971、原著1949)は“アメリカが精神的に若かった時代”の“白昼夢のような事件”22編が紹介されている。

さらに海野弘『1920年代旅行記』(1984)は、1920年代の欧米へのタイム・トラベル記である。

いずれもそのうち再読したい。

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