徳岡孝夫◆完本 紳士と淑女 1980~2009
鳩山演説を聞いて、私は「これで1ページは書ける」と感じた。〔…〕そこへ弟の鳩山邦夫が思いがけない発言をした。かんぽの宿の一括売却を「許さない」、「だって正義に反するもの」というのである。友愛の次は正義か! 私はほとんど卒倒しかけた。これを書かずに何を書くか。 思わず立ち上がってバンザイを叫びかけたが、その瞬間、我に返った。私の右腕には点滴の針が差され、チューブの下には洩瓶がぶら下がっていた。 3月(2009年)に入院する直前、「諸君!」の編集長から「6月号で休刊になります」と、雑誌の終焉を聞かされていた。 おまけに私の視力は近頃とみに悪化し、大きいルーペを使ってももはや新聞の切り抜きは読めなくなった。書く力がない。書く場所がない。もうトシである。人を呪わば穴二つ。〔…〕 音羽の兄弟の片言隻語を捉えて嘲笑するような仕事には向いていなかった。30年前の編集長がなぜ私に目をつけて寄稿を求めたか不明だが、それが長々と続いたのはもっと不思議である。しかし今や彼の連載コラムも終わった。 |
◆完本 紳士と淑女 1980~2009|徳岡孝夫 |文藝春秋 |ISBN:9784166607167 |2009年09月|新書
★★★
《キャッチ・コピー》
オピニオン誌「諸君!」の巻頭を飾る名物匿名コラム「紳士と淑女」は1980年1月号より連載が始まった。爾来30年、時流におもねらず、深い洞察力とジャーナリスティックなセンスで数々の名文を書き続けた筆者は、雑誌の休刊にともない、ついに自らの名とがん闘病を明らかにした。
《memo》
徳岡版現代史“人物クロニクル”、コラム263本。
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