今野敏◆疑心――隠蔽捜査3
昔、一人の老婆がおり、20年にもわたり、一人の雲水の面倒をみていた。いつも、若い娘に食事の世話などをさせていた。 ある日、老婆はその娘を使って、雲水を試そうとした。 娘は、雲水に抱きつき、こう尋ねたのだ。「どうです? どんな感じがしますか?」 すると、雲水は、平然とこたえた。 「枯れ木が凍り付いた岩に寄りかかったようなものです。真冬に暖気がないように、私には色情などまったくありません。だから、私は何も感じません」 娘は、帰って老婆にありのままを伝える。 すると、老婆は烈火のごとく怒り狂った。 「私は、20年もかけて、こんな俗物を育てていたのか」 老婆は、たちまち雲水を追い出し、汚らわしいと言って、雲水が住んでいた庵を焼いてしまった。それくらい老婆の怒りは凄まじかったのだ。 「婆子焼庵」はここで終わっている。 いったい、何のことだ……。 |
◆疑心――隠蔽捜査3|今野敏|新潮社|ISBN:9784103002536|2009年03月
★★★
《キャッチ・コピー》
米大統領訪日の方面警備責任者を命じられた竜崎のもとに、専用機AF1の到着する羽田空港でのテロの情報が。
《memo》
大森署長に左遷されたキャリア警察官僚竜崎の視線で描くシリーズ第3作。世事にうとく妻に唐変木といわれている竜﨑が、なんと部下の女性に恋心を抱く。悩みの果てに禅問答の本にたどりつく。上掲は「婆子焼庵」という公案。「悩むことを恐れるべきではなかった」という教訓(?)
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