北方謙三◆三国志(5の巻)
「俺は、この歳になって、人の言葉の虚実が聞き分けられるようになった。 確かにおまえは、自分では夢だと思っている。この国の覇権を取るのが夢だ、と曹操が思っているのと同じようにな。自分で、夢だと思いこむ。それはたやすいことなのだ、若造」 「わかりません」 「夢は、人の心の悲しさから生まれてくる。野望は違う」 「私には、人の心の悲しみがわからぬ、と将軍は言われますか?」 「おまえは、わかるだろうさ。それがわかろうとわかるまいと、野望は別なところから生れてくる。曹操も袁紹も、人の心の悲しみぐらいはわかったであろうよ」 張燕は、うつむいたまま喋っていた。そういう姿は、生きることに疲れた老人のようにしか見えない。しかしまた、馬上の姿よりもずっと、張衛の心には食いこんでくるのだった。 |
◆三国志(5の巻)|北方謙三|角川春樹事務所|ISBN:9784894568969|2001年10月|文庫
《キャッチ・コピー》
志、野望、そして誇り。男たちは何を賭けて闘うのか。曹操の覇道、いまだ遙かなり。
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