北方謙三◆三国志(6の巻)
そうやりながら、土と語り合うことを覚えた。息苦しい、と土が語りかけてきたら、耕してやる。水が欲しいと言う時は、小川の水を引いてやる。 自分は、このまま終るのだろうか。 孔明も、土に訊いた。〔…〕 人は、自分を闊達だと言う。学を好み、出世や名利に媚びないと言う。闊達ではなかった。土は、それをよく知っている。世に出たいという思いもあった。しかし、愚かな者の下にはいたくなかった。 どこかで、心がねじ曲がった。それはよくわかっていた。時々は、怨念のような言葉を、土の中に埋めた。 この土は肥料だけで肥えたのではない。自分の思いを、十年にわたって呑みこみながら、肥えていったのだ。 |
◆三国志(6の巻)|北方謙三|角川春樹事務所|ISBN:9784894569461|2001年11月|文庫
《キャッチ・コピー》
諸葛亮孔明、静謐の竹林を出て、ついに登場!混迷の乱世、いまだ定まらず。
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