北方謙三◆三国志(9の巻)
関羽の鉢には二本。青竜偃月刀でも、払いきれない矢だった。 雄叫びをあげ、関羽は敵の中に突っこんだ。敵が、崩れていく。雪が、赤く染まる。 赤兎が荒い息とともに、血を噴き出した。それでも、駈けている。 手綱を、軽く引いた。 赤兎を降りる。 「もういい。もういいのだ、赤兎。おまえは、私には過ぎた名馬だった」 首筋に、手を置いた。赤兎が、かすかに首を動かした。それから、膝を折った。 青竜偃月刀を低く構え、関羽は敵にむかって歩きはじめた。 いい兄弟がいた。いい友がいた。 そして、闘い、生きた。〔…〕 躰が、宙に浮いた。誰かが、支えてくれた。そう思ったが、雪の中に倒れただけだった。 「関羽雲長、帰還できず」 呟いた。 次第に、視界が暗くなった。 |
◆三国志(9の巻)|北方謙三|角川春樹事務所|ISBN:9784894569546|2002年02月|文庫
《キャッチ・コピー》
そして、関羽は、劉備の北征を援護すべく、荊州の大地にその名を刻む。北方“三国志”震撼の第九巻。
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