吉田修一◆キャンセルされた街の案内
二人が初めて会ったときの思い出話。親友の彼女と、恋人の親友との出会い。Mにはもったいない彼女だと患っていたと打ち明けると、グラスの水を飲み干した彼女は、彼を裏切ってしまった自分が情けないと言った。 恋人を裏切ること。親友を裏切ること。どちらが罪深いのだろうか。今なら、恋人でも親友でも簡単に裏切れる。 親友であるあなたと彼の関係を壊したくないの。などと、彼女は馬鹿げた言い訳をしてくれない。そんな女性だからこそ、いつまでも吹っ切れないのだと思う。 あの夜、以来、初めて彼女と会う。ワインを選ぼうとすると、「私、今日は水でいいや」と彼女は言った。それが彼女の答えなのだ。 千の偶発事を記述して、しかもそこから一行の意味を引き出すことも差し控えるような。昨夜から読み始めた本の一文。 ――「24 Pieces」 |
◆キャンセルされた街の案内|吉田修一|新潮社|ISBN:9784104628056|2009年08月
★★★
《キャッチ・コピー》
東京、大阪、ソウル、そして記憶の中にしか存在しない街─戸惑い、憂い、懼れ、怒り、それでもどこかにある希望と安らぎ。あらゆる予感が息づく「街」へと誘う全十篇。
《memo》
文字どおり24の断片で構成された短編「24 Pieces」。上掲はそのうち5つの断片である。ベートーヴェンのピアノソナタ第24番嬰ヘ長調『テレーゼ』(Variations Piano Sonata 24 Pieces)と関係あるかどうか。ないと思う。
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