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2010.01.25

ノンフィクション100選★日本の黒い霧|松本清張

Nonfiction100

1960

51411日、マッカーサーはトルーマンによって突如解任された。〔…〕

「天皇よりも偉い」神さまのようなマッカーサーが解任されたと知ってびっくり仰天したのは、日本国民だけであった。

そして、解任の理由を知らされなかったのも、日本国民だけだった。〔…〕

「彼の考えは、戦争を朝鮮から中国に切換えることにあった。

中国の沿岸封鎖、中国本土に対する空軍活動、満州にある戦争の経済的基地に対する爆撃、おそらく国民党の軍隊を台湾から中国本土へ侵入せしめること

――これらの考えは、のちになって明るみへ出されたものだが、とにかく、元帥はこれらの策を取るのが絶対必要だと見なしていた〔…〕」(「マンチェスター・ガーディアン」主筆グィー・ウィント『朝鮮動乱回顧録』)

――「謀略朝鮮戦争」

★日本の黒い霧13|松本清張|文藝春秋新社|1960

 松本清張が社会派推理小説でブレイクしたのは光文社の「カッパ・ノベルス」によってだった。

この新書版はカッパ・ブックス小説部門として、1959年松本清張『ゼロの焦点』でスタートした。『眼の壁』(1960)『点と線』(同左)など、連続してベストセラーとなり、清張ブームを巻き起こす。

当時の小説は、四六版、箱入りというのが一般的だった。カッパ・ブックスは、従来の装丁家でなく新進のグラフィックデザイナーを起用した。その斬新なデザインのカッパの本は、新鮮でかろやかな雰囲気で店頭をにぎわした。

 松本清張は推理小説と平行して『小説帝銀事件』(1959)を手始めに戦後の“黒い霧”を取り上げる。『日本の黒い霧』(1960)は、「文藝春秋」19601月号~12月号に連載された。帝銀事件=昭23、昭電疑獄事件=昭23、下山事件=昭24、松川事件=昭24、などアメリカが日本を占領していた時期の事件が扱われている。「週刊文春」に連載された『昭和史発掘』(19651972)とともに、清張の昭和史2大傑作ノンフィクションである。

 同書文庫版に掲載の「なぜ『日本の黒い霧』を書いたか」(初出=「朝日ジャーナル」196012)に、「だれもが一様にいうのは、松本は反米的な意図でこれを書いたのではないか、との言葉である。これは、占領中の不思議な事件は、何もかもアメリカ占領軍の謀略であるという一律の構成で片づけているような印象を持たれているためらしい」と書いている。「帰納的にそういう結果になったにすぎない」としている。いわゆる“謀略史観”“清張史観”である。

 私が注目するのは、1960年当時、ノンフィクションという用語がなかったということである。

「最初、これを発表するとき、私は自分が小説家であるという立場を考え、『小説』として書くつもりであった。〔…〕しかし、それでは、読者は、実際のデータとフィクションとの区別がつかなくなってしまう。〔…〕それよりも、調べた材料をそのままナマに並べ、この資料の上に立って私の考え方を述べたほうが小説などの形式よりもはるかに読者に直接的な印象を与えると思った。そこで「単なる報告や評論でもない」こういう特殊なスタイルができあがったわけである。〔…〕自分の思い通りの自由な文章で発表したかった。作者が考えていることを最も効果的に読者に伝達するには、文学の形式などはどうでもよいのである」(同上)

 手元に『別冊新評・ルポライターの世界』(1980)がある。そのなかの松浦総三「戦後ルポルタージュ30選」の冒頭……。

「日本のジャーナリズムで、ルポルタージュとかノンフィクションが、重要視されるようになったのは、1960年前後からである。それまでは、ジャーナリズムの“人気商品”は、第一に著名作家の小説であり、第二に大学教授が肩書きの論文であった。おつぎが、古手の新聞記者の評論であり、ルポルタージュやノンフィクションは、せいぜいのところ三流の読みものにすぎなかった」。

 1960年前後の出版社系週刊誌ブームで、トップ屋などライターが脚光を浴びた。ルポライターとはルポルタージュとライターとの仏・英混合語である。テレビではルポルタージュといわずドキュメンタリーといった。一時、ニュー・ジャーナリズムという用語もあった。そして“ルポライターの登竜門”として大宅壮一ノンフィクション賞ができたのは1970年のことである。松本清張はノンフィクション分野においても先駆的であった。

 

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