黒鉄ヒロシ●色いろ花骨牌
いかなる経緯からか、腔外射精の話となり、何気なく「あれは妊娠の怖れがありますからね」と口を挟むと、卓上の三人の手が止まった、ように感じた。 視線を牌から上げて、御三方のご尊顔を拝し奉ると、各様に眉を上げたご表情。 さては言葉足りなかったかと「いえ、あの、先っぽがちょいと濡れますところの、カウパー腺液とやら言うんでしたっけ? あの中にも精子が含まれておりまして…」 聞き齧りの、我が膣外射精危険説は却下された。 「数十年、その技に頼りシも、我、かくなる仕儀と相成りしことの一度としてあらざるなり」「阿呆も休み休みに」「記憶違いであろう」。 翌日、「あー、吉行です。昨夜の膣外射精野郎は、そのうち手痛い目に遭いますな。いや、貴君が正しい、正しい」。 医者に確かめたのだと言う。 本田[靖春]さんからも電話。 やはり、確認されての訂正であった。 続いてその夜も麻雀の約束があり「乃なみ」に着いて襖を開けてみると、先着の結城[昌治]さんが畳に平伏している。 「昨夜の暴言、誠に申しわけなや、腹を切ろうか、首を吊ろうか」 御三方は連絡を取っ合ったわけではなく、個別の調査による訂正であった。 |
●色いろ花骨牌|黒鉄ヒロシ|講談社|ISBN:9784062126250|2004年11月|評=△
<キャッチコピー>
いまは亡き、懐かしい、魅力溢れる人々。麻雀を通じて知り合った芸術家たちを、心優しくえがいたエッセイ集。
<memo>
吉行淳之介/阿佐田哲也/芦田伸介/園山俊二/柴田錬三郎など故人の“ばくち”交遊エピソード。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント