白川道●俺ひとり――ひと足早い遺書
小説を読む側から書く側に変わってから気づいたことがある。 読む側にいたときは、小説はその作家の人格や匂いを代弁しているとおもっていたのだが、どうやら誤解だったらしい。すべてがというわけではないが、作品と作家の性格はまるで別物であることが多い。〔…〕 しかし小説でも隠せないこともある。匂い、である。 個人的な人格は隠せても、培って身に浸み込んでしまった匂いは行間や作品全体に滲み出てしまう。同じテーマ、同じストーリーで作家十人に書かせれば、まったくちがう匂い、読後感の小説が十編できるはずだ。〔…〕 小説の世界に限らず、匂いのする人間が少なくなった。匂いは、昭和人間の特徴だったのかもしれない。 ――「隠せない小説の匂い」 |
●俺ひとり――ひと足早い遺書|白川道|幻冬舎|ISBN:9784344017641|2009年12月|評=△
<キャッチコピー>
金、女、事件、人生、日本─。生粋の無頼派作家が、まがい物のこの世の中を一刀両断。
<memo>
「夕刊フジ」連載コラム。エッセイのたぐいは苦手だと書いているが、なるほど短文でもディテールを描かないとおもしろくないという見本。
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