久世光彦●遊びをせんとや生れけむ
〈読み人知らず〉 という言葉が、五、六歳の子供のころから好きだった。 この言葉をいったいいつ憶えたのかは定かでないが、まだ小学校へ上がる前だと思う。子供心に、この言葉に何となく神秘と悲劇と浪漫(ロマン)を感じていた記憶があるのだ。〔…〕 もうこの歳になって、作者が知れたところで、何ほどのことでもないかもしれない。 忘れ難い歌と、自分で勝手にイメージする風景があれば、それでいい。それが〈 読み人知らず〉 の浪漫である。 暑い日がつづく。日盛りの道を歩いていて、ふと夏木立の蔭に入ったりすると、おのずから足が止まって、何処かへ何か忘れ物をしてきた気持ちになることがある。 忘れ物を取りに戻るには、遠くへ来過ぎてしまった。それだけではなく、これから先は知っていることまで、〈読み人知らず〉 にどんどんなっていく。そして何もかもが曖昧模糊になったとき、最後に残るのは、いったい何なのだろう。 ――「読み人知らず」 |
●遊びをせんとや生れけむ|久世光彦 |文藝春秋 |ISBN:9784163718408 |2009年08月|評=○
<キャッチコピー>
昭和のテレビドラマ黄金期を創った著者、最後のエッセイ集。
<memo>
久世の名エッセイがまだ残っていた。
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