« 司馬遼太郎●坂の上の雲(七) | トップページ | 森英介●風天――渥美清のうた »

2010.01.16

司馬遼太郎●坂の上の雲(八)

20100116sibasaka08

連合艦隊司令長官である東郷が、決戦場にむかうにあたり、故国にむかってその決心をのべるための電報であり、その起草をしなければならない。〔…〕

飯田少佐が真之のところへやってきて、草稿をさし出した。

「敵艦見ユト警報二接シ、聯合艦隊ハ直ニ出動、之ヲ撃滅セントス」

とあった。〔…〕

そのとき真之は、「待て」ととめた。

すでに鉛筆をにぎっていた。その草稿をとりもどすと、右の文章につづいて、

「本日天気晴朗ナレドモ浪高シ」

と入れた。〔…〕

たしかにこれによって文章が完璧になるというだけでなく、単なる作戦用の文章が文学になってしまった観があった。〔…〕

じつをいうと、この、

「天気晴朗ナレドモ浪高シ」

という文章は、朝から真之の机の上に載っかっていた。東京の気象官が、大本営を経て毎朝とどけてくる天気予報の文章だったのである。

――「抜錨」

●坂の上の雲(八)|司馬遼太郎|文藝春秋|1978|文庫|評価=○

<キャッチコピー>

本日天気晴朗ナレドモ浪高シ―明治38527日早朝、日本海の濛気の中にロシア帝国の威信をかけたバルチック大艦隊がついにその姿を現わした。国家の命運を背負って戦艦三笠を先頭に迎撃に向かう連合艦隊。大海戦の火蓋が今切られようとしている。感動の完結篇。

<memo>

「いまからおもえばじつにこっけいなことに米と絹のほかに主要産業のないこの百姓国家の連中が、ヨーロッパ先進国とおなじ海軍をもとうとしたことである。陸軍も同様である。人口五千ほどの村が一流のプロ野球団をもとうとするようなもので、財政のなりたつはずがない」(「あとがき一」)。

「このながい物語はその日本史上類のない幸福な楽天家たちの物語である。〔…〕楽天家たちは、そのような時代人としての体質で、前をのみ見つめながらあるく。のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲がかがやいているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう」(同)

|

« 司馬遼太郎●坂の上の雲(七) | トップページ | 森英介●風天――渥美清のうた »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 司馬遼太郎●坂の上の雲(八):

« 司馬遼太郎●坂の上の雲(七) | トップページ | 森英介●風天――渥美清のうた »