関川夏央●寝台急行「昭和」行
ひとり当たりの国民所得が高くなると、スポーツから「ハングリー」というモチベーションが消える。ボクシングが弱くなる。「社会派」の映画や小説がすたれる。 さらに高くなると観光産業が隆盛となって、やがて「レトロな気分」が流行する。それにつれて鉄道ファンの数も増す。 台湾は十二分に条件を満たしている。げんに集集――水里駅間の、線路が好ましげなカーブをえがいている場所で、鉄道写真好きがカメラを構えていた。自分が撮られるわけでもないのに、照れくさい。しかし「鉄ちゃん」が育つには全島の線路が短かすぎる。〔…〕 自強号に乗る。いちばん速い自強号は高雄の南の大きなベッドタウン、鳳山にも停車しない。〔…〕ここには「人文懐旧館」という大きなレストランがあり、広い店内に古い鳳山駅の窓口まで再現されているという。発展のあとには必ず「懐旧」がやってくる。 ――「台湾周回」 |
●寝台急行「昭和」行|関川夏央|日本放送出版協会|ISBN:9784140813843|2009年07月|評=○
<キャッチコピー>
東京近郊から日本の鄙、さらに海外へ。「昭和」の残照を求めて旅する愉悦に、精緻なデータと成熟したユーモアを加えた関川的鉄道記。
<memo>
「鉄路」エッセイ集。
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