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2010.02.25

ノンフィクション100選★週刊誌血風録|長尾三郎

2004

三島由紀夫が自衛隊乱入、割腹自決したのが1125日。杉本暁也の記録によれば、28日から本格的に送稿を開始し、122日の深夜2時半に凸版印刷で出張校正を完了した。

三島事件から1週間後には、週刊現代増刊号『三島由紀夫緊急特集号』1212日号)が早くも販売店に並んでいた。増刊号は角トジで全170ページ。150円。

 今回、当時を思い出しながら、川鍋孝文と話をしているとき、川鍋でさえ信じられないような当時の盛りあがりを、私に語った。

30万部刷って即日完売だよ。すぐ異例の増刷で7万部刷ったが、焼け石に水の感じで、

その後この増刊号は神田の古本屋で万単位で売られている。オレは2冊持っているけどね(笑い) 」

まさに驚異的なスピードで、『三島由紀夫緊急特集号』は世に出た。川鍋孝文が率いる企画部は、第一編集局の“別動隊”という位置づけから、まぎれもなく講談社の“正統の嫡子”であるということが、誰にも認識されるように変わっていた。

わずか数日の超短期決戦で編集・発行した増刊号ではあったが、今読み返しても実に良くできている。

★週刊誌血風録|長尾三郎|講談社|ISBN9784062749435200412月|文庫オリジナル

“編集者もの”というジャンルがあるかどうか知らないが、編集者が書いた本が好きである。編集者として担当した作家の“知られざる”素顔を紹介する、いわば文壇裏面史のようなもの。ある雑誌が世相を反映する事件を追う編集の現場や出版経営の内幕を回顧したもの。長尾三郎『週刊誌血風録』(2004)は、著者の「女性自身」取材記者、「週刊現代」のアンカーなど、40年におよぶ週刊誌生活の自伝的ドキュメントの傑作である。

 上掲は、1970年の三島事件のとき、講談社第一編集局企画部というプロジェクト・チームで川鍋孝文部長をトップに「週刊現代」増刊『三島由紀夫緊急特集号』をつくる話。いま手元に、当時買ったその増刊号がある。ちなみに「日本の古本屋」サイトで調べると、5004,500円である。著者は「今読み返しても実に良くできている」と自賛しているが、そのとおり。編集開始から1週間で発売とは信じられないできばえである。その編集現場の模様が本書で明かされている。

 さて、週刊誌の“編集者もの”といえば、古くは、「週刊朝日」扇谷正造『えんぴつ戦線異常なし』(1954)、「サンデー毎日」野村尚吾『週刊誌五十年』(1973)、編集長インタビュー集・江国滋『鬼たちの勲章』(1983)、「女性自身」桜井秀勲『本日発売』(1993)赤田祐一『「ポパイ」の時代』(2002)、「週刊現代」伊藤寿男『編集者ほど面白い仕事はない』2004)、赤木洋一『平凡パンチ1964(2004)、「週刊文春」花田紀凱『編集者!』2005)、「週刊現代」元木昌彦『週刊誌編集長』2006)、「アサヒ芸能」佐々木崇夫『三流週刊誌編集部』(2006)赤木洋一『「アンアン」1970(2007)塩澤幸登『平凡パンチの時代』(2009)など、どれも夢中になった。

 そして欠かせない1冊がある。本書にタイトルの似た高橋呉郎『週刊誌風雲録』(2006)で、週刊誌“戦国時代”を中心にした“通史”である。新書でページ数が少ないのは、なんとも残念。たとえば、こんな記述がある。

――「週刊新潮」が創刊されて5年、戦国時代にふさわしく、週刊誌界の勢力地図は大きくぬりかえられていた。かつての二大勢力、「週刊朝日」と「サンデー毎日」は、新興の出版社系週刊誌に主役の座をゆずりつつあった。〔…〕

梶山季之は363月末に“部隊”ともども「週刊文春」から撤退した。創刊から、ちょうど2年たっていた。〔…〕

いっぽう「週刊新潮」では、草柳大蔵と“陰の編集長”斎藤十一の関係がきしみはじめていた。もともと草柳のデータ・ジャーナリズムと斎藤の俗物主義は相容れないものがあった。

草柳は週刊誌のレポートを通して、「運動としてのジャーナリズム」を実践しようと思った。目線を庶民と同じ高さにおいて、足で集めたデータを構築する。そのレポートによって、庶民が政治や社会を考え、判断する基準を与えたい、というものだった。〔…〕俗物主義からみれば、青くさいかぎりで、要は金と女だよ、といいたいところだろう。(高橋呉郎『週刊誌風雲録』)

そして、こう書いている。1970年代に入って、週刊誌は変化する。「部数競争に勝つには、素材優先、スクープ第一が正解かもしれないが、そのために、編集者のセンスを競う酒落っ気が、誌面から消えていった」。

2010年現在、活字メディアの衰退、そして男たちの野心(出世、セックス、ギャンブル)の消失により、週刊誌は絶滅寸前である。

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コメント

週刊誌にかかわるノンフィクションでは、岩川隆『ノンフィクションの技術と思想』(1987)所収の「ジャーナリズムを考える――週刊誌論」を第一に取り上げるべきでした。1977年に書かれた週刊誌興隆時代を考察した出色の実践的週刊誌論でした。

投稿: kobe@random | 2010.03.23 19:04

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