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2010.02.17

ノンフィクション100選★小林信彦60年代日記|小林信彦

Nonfiction100

1985

[1963]1123日 (土) 晴

今朝330分、テキサス州ダラスでケネディが暗殺された。

そのため、NHKは、今日から3日間、娯楽番組の放送を停止する。したがって、今日の午後1時に予定されていた「漫才繁昌記」も放送延期となる。その旨、主幹の中島氏からTELがあった。

ケネディ大統領の死は悲しむべきことだが、日本人が3日間、喪に服する必要があるかどうか。

少なくとも、NHKの態度は事大主義かつケイハクですらある。(先日の三池炭鉱の大事故のとき、娯楽番組を放送したのを新聞に叩かれ、過敏になっているのだろう。困ったものなり。)

吉原氏は電話口でカンカンになっており、「日本はアメリカの属国ですか!」と叫ぶ。不愉快なので、午後、妻とビリー・ワイルダーの「お熱いのがお好き」を見に、渋谷に出る。

小林信彦60年代日記|小林信彦|白夜書房|19859月|ISBN 9784938256968

小林信彦『小林信彦60年代日記』(1985)――文庫版(1990)では『1960年代日記』と改題――は、1932年生まれの著者の日記から〈時代の表出〉すなわち〈時代の風潮、他人へのぼく自身のこだわりの記録〉を抜き出したものである(あとがき)。なにしろ日記1年分が原稿用紙5600枚分もあり、それを30枚ずつまとめ、1959年から1970年までを抄録したものである。

著者にとってこの日記はデータベースであり、これをもとに小説『夢の砦』(1983)『回想の江戸川乱歩』(1994)『テレビの黄金時代』(2002)など、繰り返し何度も“賞味期限切れ”まで使われている。

 わたしは、偶然リアルタイムで中原弓彦名義の処女作、河出ペーパーバックス『虚栄の市』(1964)を読んで以来、いわゆる疎開ものなどの純文学を除いて、ほぼ読んでいる。半世紀になるわけだ。

 作家としてのピークは、1980年代前半だろう。機知と諧謔に充ちた『虚栄の市』のリメーク、エンターテイメント版の『悪魔の下回り』(1981)、ウイリアム・フラナガン名義の『ちはやふる奥の細道』(1983)、『夢の砦』(1983)、実験的な傑作ぞろいの短編集『発語訓練』(1984)、そして本書『小林信彦60年代日記』(1985)が、この時代に書かれている。

 本書は、「ヒッチコック・マガジン」編集長、TVのバラエティ番組の構成者・出演者、雑誌のコラムニスト、そしてひそかに純文学長編を書き続ける著者の2637歳の私的メモワールである。同じ時代を知るためには『坊ちゃん』の1960年版と自称する小説『夢の砦』(1983)を併読する必要がある。『坊ちゃん』といえば、のちに『うらなり』(2006)を発表するが、当該小説よりも同書に附されている「創作ノート」、自作より自作自註のほうが10倍以上おもしろい。著者はやはり、小説よりも評論、“理”の人であると思う。

もっとも最近のクロニクル的エッセイ『本音を申せば』シリーズなど、政治に対する平凡な少数派意見、孫自慢、古いアメリカ映画の話、テレビは見ないといいながらタレントのドラマを追っかけたり、その朦朧ぶりはいささか痛々しい。

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