戸塚洋二/立花隆●がんと闘った科学者の記録
私ももちろん「今後の事も恐れるばかり」の時期があり、今も無論あります。この「恐れ」に自分なりの対処をすることに必死になって努力しています。〔…〕 よく人はしたり顔に、「残り少ない人生、一日一日を充実して過ごすように」と、すぐできるようなことを言います。 私のような平凡な人間にこのアドバイスを実行することは不可能です。「恐れ」の考えを避けるため、できる限りスムーズに時間が過ぎるよう普通の生活を送る努力をするくらいでしょうか。 「努力」とつい書いてしまいました。ここにある私の「努力」は、見る、読む、聞く、書くに今までよりももう少し注意を注ぐ、 見るときはちょっと凝視する、読むときは少し遅く読む、聞くときはもう少し注意を向ける、書くときはよい文章になるように、という意味です。 これで案外時間がつぶれ、「恐れ」を排除することができます。この習慣ができると、時間を過ごすことにかなり充実感を覚えることができます。 Aさん、ちょっとやってみませんか。 |
●がんと闘った科学者の記録|戸塚洋二・著/立花隆・編|文藝春秋|ISBN:9784163709000|2009年05月|評=◎おすすめ
<キャッチコピー>
戸塚洋二。1942~2008。ニュートリノ観測でノーベル賞を確実視されていた物理学者が、最期の11ヵ月に綴った病状の観察と死に対する率直な心境。
<memo>
上掲Aさんとは、著者のブログに以下のコメントを寄せた人。「私は大腸癌が腹膜転移したステージ4大腸癌患者で、これからの事を考えると明るい材料は何一つありません。大腸癌から肺転移、骨転移、脳転移となり、抗癌剤も使い切った状態のあなたが、まるで自分という存在を超越したような、その前向きな考え、行動は、一体どういう心の持ち方をしたらできるのか、ご教示頂けませんでしょうか」。Aさんが幼い子を持つ若き父親だと知り、著者は「僕の抱えているより彼の悩みはずっと深刻なんだ。なんと言葉をかけていいのか、わからない」と言っていたという(本書巻末註)。
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