佐伯一麦●石の肺――アスベスト禍を追う
1メートルほどの木の棒の先に10センチほどの刃が付いたものを手渡されました。 これでアスベストをこそぎ落とす。ケレン棒というそうです。 それを使って、梁や天井にくっついているアスベストをただひたすら落としていきます。落としたところを、別の者が、ブラシで少しのアスベストも残らないようにとこすり続けます。 その後、さらに飛散防止抑制剤を塗ります。 落としても落としてもきりがない……。 何という徒労感だろう。 電気工事の現場では、たとえアスベストまみれになっても、明かりを付ける、配線を増やすという達成感のようなものがありました。ところがこの作業には、それがまるでないのです。 ――第4章 むなしき除去工事 |
●石の肺――アスベスト禍を追う|佐伯一麦|新潮社|ISBN:9784103814047|2007年02月|評=○
<キャッチコピー>
ぼくの肺には、永久に光る粉(アスベスト)が刺さっている。胸の疼痛、止まらぬ咳、熱、重い疲労感。みずからも後遺症に苦しむ私小説作家が被害の最前線を歩き、「静かな時限爆弾」の実態を明らかにするノンフィクション。
<memo>
上掲は、本書を書くにあたりアスベスト除去工事現場を体験した場面。激しい咳き込みにおそわれ、わずか20分ほどで現場を去る。長い年月を経てあらわれるアスベスト禍の入門書的ドキュメント。文庫版は『石の肺―僕のアスベスト履歴書』(2009)に改題。
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