吉村昭●七十五度目の長崎行き
名所旧蹟がびっしりとつまっていて、長崎特有の市内電車に乗ってそれらを観てまわる。 それに、食べ物が無類にうまい上に人情がことのほか篤く、私は、長崎へ行っても常に快い気分で、帰途につく時、また来たい、と思う。 家内は冗談に、私が蒸発したら、夜、長崎の思案橋付近を探したら必ず見つかる、と言っている。 そのあたりは、小料理屋や鮨屋その他が密集していて、私が徘徊しているはずだというのである。 私の場合、旅行の楽しみは、夜、うまい物を肴に酒を飲むことである。長崎でも、夜、あちらこちらと歩きまわって、ここぞと思う小料理屋に入ることを繰返してきたが、二十年近く前から或る小料理屋に行くのが常になり、それ以外の店には入らない。 ――「長崎、心温まる地への旅」 |
●七十五度目の長崎行き|吉村昭|河出書房新社|ISBN:9784309019277|2009年08月|評=△ファン向き
<キャッチコピー>
取材魔・吉村昭は、またおのずから旅の人でもあった。街角のほんのそこまでの旅から、数々の名作の舞台となった土地の記録まで。「歴史の証言者」が文字通り全国津々浦々をめぐる、最後の紀行文集。
<memo>
単行本未収録エッセイ集。取材で訪れた長崎、宇和島、小豆島、そして行きつけの町・浅草など、好ましい印象をもつ町々をあたたかい視線で描く。
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