立松和平●世紀末通りの人びと
臓器移植の最大のテーマは、免疫の問題と臓器提供システムの問題である。 免疫の問題が技術的に解決したとして、人間のあらゆる臓器が貨幣に換算されるとする。そうすれば人間の肉体の価値も大きく変化するのだろう。 人間の肉体の、総体ばかりでなく、部分までが商品となってしまう時代には、死さえもが商品化されていくのに違いない。安楽死ツアー、死のためのレッスン、死のカルチャースクール……。 私は脳死後、自分の心臓を人にあげてもいいと思っている。 私という肉体が死んでからも、誰か知らない他人の中で私の心臓がゴトゴト動きつづけているイメージは、そう悪くはない。 しかし、私自身は他人の心臓はもらいたくない。私のこの肉体が滅んだ時に、私は死を迎える。それでいい。 ――「生と死の光景」 |
●世紀末通りの人びと〈俺たちを撃つな編〉〈私たちを見よ編〉|立松和平|青春出版社 |1993年08月|評=○
<キャッチコピー>
俺たちは何を信じ、何を貫けばいいのか!現代の光と闇に挑む人間深層ルポ。
<memo>
作家・立松和平氏が2010年2月8日、多臓器不全のため死去。62歳。本棚を探したら本書が出てきた。「サンデー毎日」1985~86年に連載されたもの。歌舞伎町、山谷、花園神社などエキサイティング東京のルポのつもりが、結局、礼文島から与那国島まで列島紀行に。80年代の時代状況をつぶさに映す。
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