坂野昭彦●一文無しが贋札造って捕まって
先日、弁護士さんに出した手紙の下書きを取り出して読み返した。〔…〕 手紙の概要は、妻子のことを思って別れ、寝たきりでアルツハイマーの母を一人で看取ってきた。その母が残って、総てのやり甲斐を失くして罪を犯してしまったが、今ではそれを深く反省している、という内容である。 私が裁判官の立場に立って一考すると同情の余地は窺えた。しかし、その限りでしかない。このままでは舌足らずで、 “私はこうした状況の中にいたんだから助けてくれ!” という懇願でしかない。 大切なのはもう一歩踏み込んだ、真の動機と反省、加えて私自身の揺るぎない指標だろう。動機を深く抉れば、悪質と解されて「両刃の剣」になる危険性がある。 だが、それを白日の下に晒して改悛する点に、私の人間性が如実に表れる気がした。 私はペンを執り、服部先生への本日のお礼から書き始めた。 |
●一文無しが贋札造って捕まって|坂野昭彦|幻冬舎|ISBN:9784344016637|2009年04月|評=○
<キャッチコピー>
あとは自殺か、ホームレスか? ふと私は自分にだけ可能で独特な犯罪を思いついた。――通貨偽造。コンピューターを駆使して造った贋の1万円札はほれぼれする出来だった。が、タクシーで50枚使った後、埼玉県警に逮捕され、すぐに裁判が始まった…。第9回幻冬舎アウトロー大賞受賞。
<memo>
留置場で同房となったリフォーム詐欺、痴漢常習者、暴力団組員、自動車泥棒、そして取り調べの刑事たちとの奇妙な連帯の日々が、静謐な文体で克明に描かれる。
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