中島梓●転移
旦那が買ってきたガン治療の最前線みたいな単行本のなかで「ひとはなぜ癌で死ぬのか」という章があり、 癌そのもので死ぬわけではなく、癌の影響で臓器不全になり、栄養失調状態になり、体重が激減し、「悪液質」というのになって、免疫力が低下し、そして転移された臓器がうまく動かなくなって死にいたるのだ、という、「ガンそのもので死ぬわけではない」というくだりを読んでいて、 このところ体重もまったく減っていないし、白血球も減っていないし、確かに体力は落ちたけれども栄養失調まではいってないし――と今度は「まだまだいける」的な気持になったりして、本当に文字通りの一喜一憂だ。 べつだん悟りを開いて平明な気持でずっと暮らしていたいとは思わないが、「もう、生きていても仕方もないし……」と思う「もう一人の私」は誰なんだろう。 なんとなく、それこそは、私を《死》にむかって誘い込もうとしているタナトスの手先ではないのか、というような気がしないでもない。 何かにつけて考えること、動揺すること、上がったり下がったりすることの多い1日だった。今日は食べられなかった上海やきそば、明日はおいしく食べられるといいな、と思う。 ――[2009年]1月15日(木) |
●転移|中島梓|朝日新聞出版|ISBN:9784022506665|2009年11月|評=△ファン向き
<キャッチコピー>
作家であり、主婦であり、母であったひとりの女性のかつてないがん闘病記。中島梓=栗本薫の命の証。
<memo>
2009年5月26日、栗本薫=中島梓、死去。56歳。すい臓がんが肝臓に転移し、抗がん治療をしながら、『グインサーガ』シリーズを執筆し続けた。最期の闘病記の本書は、2008年9月から2009年5月の意識を失う直前までの日記。上掲の1月15日の日記は、3100字(400字詰にして約8枚)。書くことが闘うことであったようだ。
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