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2010.03.26

ノンフィクション100選★カリスマ――中内功とダイエーの「戦後」|佐野真一

1998

神戸の中心部からちょっとはずれたところに元ダイエーの“社外重役”が住んでいる。神戸高商で中内の同期だった彼は、ダイエーの初期から重要な役職にあったが、なぜかいまはダイエーとの縁を切っている。〔…〕

最初に出たのは、神戸高商の同期ですでに亡くなったダイエー元副会長の加古豊彦の思い出話だった。

「加古もダイエーに入らなんだら、もっと長生きできたのになあ…。加古がダイエーに入るとき、歓迎会をある中華料理屋でやったんや。そのとき中内は挨拶でこういいよった。

『みんなの骨は俺が拾ったる』

あいつななんで『俺と一緒に死んでくれ』といえんのやろか…。中内の部下は、みんな長生きできへん」〔…〕

私が中内に興味をもつのは、そうした人間的欠陥をあわせもつ中内が、なぜダイエーをこれほどの巨大企業におしあげることができたのか、という一点に尽きる。

★カリスマ――中内功とダイエーの「戦後」|佐野真一|日経BP社|ISBN9784822241209199807

立花隆、柳田邦男、沢木耕太郎などノンフィクションの書き手の多くが評論家、エッセイスト、作家、コメンテーターになってしまった。金と労力を費やしてもあまり売れないノンフィクションの世界で、いまだに王道を歩み続けているのが佐野眞一である。

いま、わが書棚を見わたしても、初期の買春ツアーからコンドームまであつかった『性の王国』( 1981)、新聞のもう一つの社会面としての三行広告を追った『紙の中の黙示録』(1990)、夢の島から核のゴミまであつかった『日本のゴミ』(1993)、人物論として『巨怪伝─正力松太郎と影武者たちの一世紀』(1994)『旅する巨人─宮本常一と渋沢敬三』(1996)をはじめとする一連の宮本本、渋沢本、被告人の無罪説を展開した『東電OL殺人事件』(2000) 『東電OL症候群』(2001)、凡庸すぎる小渕総理を描いた『凡宰伝』( 2000)『てっぺん野郎-本人も知らなかった石原慎太郎』(2003)、最近の『甘粕正彦 乱心の曠野』(2008)『沖縄─だれにも書かれたくなかった戦後史』(2008)等々、疲れを知らぬ進撃ぶりを示す背表紙が連なっている。他の著作を含めほぼ全作品を読んでいる。

『カリスマ――中内功とダイエーの「戦後」』(1998)は、「日経ビジネス」に連載されたとき毎号読んだ。極彩色のイラストや写真がレイアウトされた横書きのノンフィクションであった。佐野眞一の作品のなかから100選に『カリスマ』を選んだのは、ダイエーが神戸という都市の盛衰に大きなかかわりがあり、またそのメイド・イン・ダイエーを日常的に利用していたことによる。JR新神戸駅(ホテル・劇場)、ポートアイランド(会員制店舗)、ハーバーランド(会員制店舗)、研究学園都市(流通科学大学)、西神ニュータウン(ホテル)など、神戸の大型プロジェクトにダイエーは当然のようにかかわっている。

私の友人の一人は神戸商大出身であるゆえにダイエーへ転職したし、もう一人の友人は『中内功の燃える言葉』など数冊の中内本を出した。著者はあとがきで「神戸の街は路地裏まで諳んじられるようになった」と書いているが、細部に誤認も多い。

神戸・三宮に“ダイエー村”と称される一角があった。三宮本通と京町筋が交差するところに、ダイエーさんのみや男館(1階にパブ風の立ち飲みバーがあった)、パレックス34階に電器館(パソコン以前はオーディオが主流)、コスモポリタンのビルにジーニング館、さんのみや女館、西にステーキのフォルクス(サラダバーを初めて経験した)、そして南にリビング館。この6階建てのリビング館こそ、ダイエー躍進のルーツであるSSDDS(セルフ・サービス・ディスカウント・デパートメント・ストア)であった。昭和30年代、ここで初めてずらり連なるレジを見た。そして“ダイエー村”のすべては阪神・淡路大震災で消滅する。

佐野眞一編著『戦後戦記――中内ダイエーと高度経済成長の時代』(2006)は、『カリスマ』以後に書かれたものである。2005年に死去した中内の葬儀は、流通科学大学の学園葬として営まれ、創業者としてのダイエー社葬は行われなかった。それに憤った佐野が、佐野流に行った“葬儀”が本書である。とりわけ堤清二との対談「戦後日本人の豊かさと貧しさ」は中内の追悼にふさわしい。巻末にダイエーの躍進時の折込チラシなどが収録されている。

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