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2010.03.15

村上春樹●神の子どもたちはみな踊る

20100315murakamikaminoko

「三宅さんって、どんな絵を描いているの?」

「それを説明するのはすごくむずかしい」

順子は質問を変えた。「じゃあ、いちばん最近はどんな絵を描いた?」

「『アイロンのある風景』、三日前に描き終えた。部屋の中にアイロンが置いてある。それだけの絵や」

「それがどうして説明するのがむずかしいの?」

「それが実はアイロンではないからや」

順子は男の顔を見上げた。「アイロンがアイロンじゃない、ということ?」

「そのとおり」

「つまり、それは何かの身代わりなのね?」

「たぶんな」

「そしてそれは何かを身代わりにしてしか描けないことなのね?」

三宅さんは黙ってうなずいた。

――「アイロンのある風景」

●神の子どもたちはみな踊る|村上春樹|新潮社|ISBN9784101001500200203月|文庫|評=◎おすすめ

<キャッチコピー>

19951月、地震はすべてを一瞬のうちに壊滅させた。そして2月、流木が燃える冬の海岸で、あるいは、小箱を携えた男が向かった釧路で、世界はしずかに共振をはじめる…。大地は裂けた。神は、いないのかもしれない。でも、おそらく、あの震災のずっと前から、ぼくたちは内なる廃墟を抱えていた―。

<memo>

ノンフィクションやエッセイばかり読んでいると、皮膚がざらざらするような気分になることがある。こういうときは上質の物語をじっくり味わいたくなる。本書でひさしぶりに楽しんだ。もともと「地震のあとで」というタイトルの連作、6つの短篇。「蜂蜜パイ」という短篇には、「短篇小説という形式は、あの気の毒な計算尺みたいに着々と時代遅れになりつつある」というフレーズがある。さて上掲部分は「アイロンのある風景」。茨城の海岸で焚き火する男女の会話。その前に、「三宅さんってさ、ひょっとしてどこかに奥さんがいるんじゃないの?」と問われる場面があり、上掲の後に、「どや、今から俺と一緒に死ぬか?」という場面もある。

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