重金敦之●小説仕事人・池波正太郎
池波正太郎はよく小説の中に食べるシーンを登場させたが、とりわけ豪華な料理や珍奇な食材を書いているわけではない。 〈今朝も暗いうちに、たんねんに出汁をとってこしらえた味噌汁を鍋ごと大きな笊(ざる)に入れ、裏の石井戸の中へ吊し下ろし、よく冷やしておいた。(略) ほどよく漬けた茄子の香の物へは、溶き芥子をそえ、それに葱をきざみこんだ炒卵(いりたまご)で、小兵衛が飯を三杯もおかわりした……〉 (「決闘・高田の馬場」『剣客商売』新潮文庫) どうです。おいしそうでしょう。その昔、池波正太郎は私に、「わざわざ食べ物のことを小説に書くのは、物語の季節感を出すためだよ」と、語ってくれたことがある。 今や日常の食べ物から、季節感はすっかり消えてしまった。 ――「江戸に学ぶ旬」 |
●小説仕事人・池波正太郎|重金敦之 |朝日新聞出版 |ISBN:9784023304758 |2009年12月|評=△
<キャッチコピー>
小説の職人、池波正太郎との三十年。『食卓の情景』、『真田太平記』など、多くの傑作を担当編集者として手掛けた元「週刊朝日」記者。2010年5月に没後20年を迎える作家の魅力と作品の本質、「食」にまつわるエピソードなどが満載。
<memo>
文庫本解説の再録、担当編集者としての交遊裏話など、池波ファン向け。池波といえば、映画、絵、食だが、ここでは食にまつわるものが多い。
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