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2010.03.10

後藤正治●奇蹟の画家

20100310gothokiseki

石井一男の日々に変わりはなかった。

ギャラリー島田へ出向くのと同じように、折々、石井のもとを訪れた。

石井作品の購入者や鑑賞者の取材を続けていると、制作者側の確認を取りたく思うことが出てくる。そんな小さな用件を抱えて足を向けた。用件が済むと、少々雑談し、制作中の絵を眺めつつぼんやりとする。そんなのんびりとした訪問であった。

取材ノートに埋まる文字は少ないが、やがてそれにも慣れていった。それに、と私は思うようになっていた。

この画家の仕事は描かれた絵がすべてを物語っているのであって、それに余分な言葉を添える必要はないのだ、と。

多分に沈黙を伴って流れるゆっくりとした時間は悪くはない。

●奇蹟の画家|後藤正治|講談社|ISBN9784062159500200912月|評=◎おすすめ

<キャッチコピー>

清貧な暮らしと深い孤独から生まれた「女神像」。絵を見て泣いたことがありますか? 病室で死を見つめた一枚の絵、亡き子を思い出させる女神像、神戸の被災者を勇気づけた彩り、清貧の画家・石井一男に救われた人びと。

<memo>

49歳で初めて個展を開いた神戸の画家のイコンのような絵にまつわるノンフィクション。藤沢周平の市井小説の飾り職人をイメージさせる寡黙な画家には、大店の若主人を思わせる饒舌な画廊主が必要だったのだろう。神戸・北野の安藤忠雄が設計したビルにその画廊はある。入ったことはないが、同じビル内にイタリア語で千客万来を意味するバー(いまは店を閉じている)へはときどき行ったことがある。これは石井一男の絵に癒しを感ずる人びとの物語であるが、わたしには海からの光にあかるく輝く震災前の“上質”の神戸の街が主人公のように思われた。

後藤正治★牙――江夏豊とその時代

後藤正治■ 不屈者

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