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2010.04.21

ノンフィクション100選★光の教会――安藤忠雄の現場|平松剛

2010

未完の建築も悪くない……。

と安藤忠雄は思う。

「茨木春日丘教会はいわゆる信者が集まる場。教会に人が集まるために、屋根が要るか?」

例えば、青空を望む自然のなかで教会の人々が牧師の話を聞く。それで何か不都合があるだろうか? 雨が降ったら傘をさせばいいではないか。屋根がなくても教会の礼拝堂として十分成立するのではないか。

予算はないのだから、今回は屋根がなくてもいい。

やがて、数年後に、教会の人たち骨が、屋根をつくるために浄財を寄進する、なんていうのはどうだろうか。そんなふうに全員で屋根をつくっていくなかで、お互いに気持ちをネットワークする、つないでいく。

そんな物語もありえるのではないか。

★光の教会――安藤忠雄の現場|平松剛|建築資料研究社|ISBN9784874606964200012

 建築がらみの本を読んで、じっさいにその建物を見に行ったことが二度ある。一つは、藤原恵洋(建築史家)の『上海―疾走する近代都市』(1988)。上海・外灘の西洋建築群。「偽りの正面」と呼ばれている。もう一つは、松葉一清(建築評論家)『パリの奇跡―メディアとしての建築』(1990)。食肉市場跡のラ・ビレット公園(磯崎新がコンペ審査員のひとり)などグランプロジェのさまざまな現場が紹介されており、格好のパリ・ガイドだった。

 さて、近いのでいつでも行けると思い、まだ現場には立っていないのが、大阪府茨木市にある「光の教会」。平松剛『光の教会――安藤忠雄の現場』(2000)は、建築士でもある著者がその知識を駆使して、教会建設の一部始終を、建築主、設計者、施工者、それぞれの立場から描いたノンフィクションである。建築とは何か、その実際を知ることができる。

 建築家というのは、ほんとうにアーティストなのですね。荷重などの安全性は構造設計家というのが別にいる。ルーティンの工法で施工できない図面では、工事のプロに頼る。この教会も、杭が必要になったり、鉄筋が倍以上に増えたり、まわりの樹木を残すため工事が手間取ったり、さらには使い勝手を無視して、椅子の配置までアーティストである建築家が支配する。

この教会は直方体の四周の壁も、そこに貫入する斜め壁、そして天井面まで、すべてコンクリート打放し仕上げである。もともと安藤忠雄のコンクリートはローコストからの発想である。しかし「コンクリートから人へ」ではないが、最近コンクリートはすこぶる評判が悪い。

ところで隈研吾・三浦展『三低主義』(2010)の隅によれば、建築家13年周期説というのがあって、「この世代論は、戦後の日本建築を説明するときには、結構便利なんです」。第1世代は丹下健三、前川国男、第2世代は槇文彦、菊竹清訓、磯崎新、黒川紀章、第3世代は安藤忠雄、伊東豊雄、長谷川逸子、第4世代は隈研吾、妹島和世、坂茂。世代は、ほぼ13歳の年齢差がある

丹下健三を中心とする第1世代のピークは1960年代の高度成長期で、イケイケドンドン、テクノロジー万歳のモダニズム建築を作った。第2世代は第1世代の『修正』、たとえば「磯崎はヨーロッパの伝統的建築・都市のデザイン手法によって、第1世代のあらっぽさを『修正』した」。第3世代の安藤忠雄は、「出自からして高卒でボクサーっていう『低』だってことをアピールして、建築は倉庫や工場の素材であるコンクリート打放しで、槇、磯崎の『高』にパンチを浴びせた」。

1世代の丹下健三とその弟子である第3世代の磯崎新との東京都庁新庁舎をめぐる“決闘”を描いたのが、平松剛の第2作『磯崎新の「都庁」――戦後日本最大のコンペ』(2008)である。

その中に、磯崎新が丹下健三の旧都庁舎を「日本の1950年代の建築の代表作」と評価しているとの記述がある。建物の表面全周に庇・ルーバーを配しており、丹下いわく「何か黒締縅(くろいとおどし)の鎧鎧(よろい)のようなものを心に画いていた」。 

これとそっくりなのが1958年の神戸市庁舎であり、わたしは長い間丹下健三だと思っていた。震災で見る影もないが、建築職の友人からこれは日建設計であるときいた。ここで謎が解けた。「この時代の丹下の建築、特に庁舎のデザインは、その後全国各地につくられる庁舎建築の雛型になった。メディアを通じてデザインを目にした建築家たちに影響を与え、模倣させずにはおかない凄みを有していた」(同書)のである。その旧都庁を取り壊してまで新都庁に執念をみせた丹下を『磯崎新の「都庁」――戦後日本最大のコンペ』は追う。

4世代の隈研吾はこう語る(2010.2.6朝日新聞インタビュー)。「国が豊かになるとは、立派な建築を造ることだった。個人レベルでは家を建てることが人生の目的になった。支えたのがコンクリートです。どこでも手に入り、扱いが自由で簡単に強度が得られる。それで地球の表面を覆っていった。阪神大震災や911テロは建築の弱さ、もろさを突きつけた。形や大きさを重視した超高層ビルのような周囲の環境を威圧する20世紀建築の時代は終わったと痛感しました」

さて、あらためて安藤忠雄の「光の教会」をどう評価すべきか?

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