中島義道●続・ウィーン愛憎――ヨーロッパ、家族、そして私
何より喜ばしいことは、ヨーロッパがその絶対的な価値を全世界の人々に押し付けることがなくなったことである。 彼らはより自信を失い、より寛大になった。それとともに、彼らが培ってきた美徳は希薄になった。 だからこそ、――私は体感的にわかるのだが――非ヨーロッパ人がそこで暮らすのが、はるかに楽になったのである。 かつては、外出するごとにじろじろ見られ、時折り「チャンチュンチョン」という罵声を浴びせられ、ヨーロッパ的マナーからちょっと外れただけで野蛮人であるかのように冷たい視線を注がれ、人々はアジア人・アフリカ人に「高級文明」を教えてやろうと身構えていた。 こうした「古きよき」ウィーンに比べ、いまのウィーンは非ヨーロッパ人にとってずっと住みやすくなった。だから、私はかずかずの現象面での「劣化」にもかかわらず、ウィーンは「進化」したと言いたくなるのである。 |
●続・ウィーン愛憎――ヨーロッパ、家族、そして私|中島義道|中央公論新社|ISBN:9784121017703|2004年10月|新書|評=○
<キャッチコピー>
十年ぶりに訪れた、思い出深いウィーン。著者が実感したのは、頑固で排他的な「古きよきウィーン」の消滅だった。町がきれいになり、上品な老婦人はいなくなり、蔑視の対象でしかなかった日本的趣味が流行し、はるかに騒音が増えた…。ヨーロッパ精神との格闘、家族との確執に彩られた、「ウィーン愛憎」ふたたび。
<memo>
「ウィーン愛憎――ヨーロッパ精神との格闘」(1990)、14年後の本書(2004)、さらに小説と銘打っているが「ウィーン家族」(2009)の三作は、ウィーン三部作として読まれるべきもの。
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