池澤夏樹●嵐の夜の読書
スヌーピーが作家志望であることはあまり知られていない。 チャーリー・ブラウンの飼い犬ということになっているあの独立不羈(ふき)の、夢想の飛行家として有名なビーグル犬には、短篇を書いては出版社に送るという性癖があるのだ。〔…〕 彼の短篇は一つ残らず「暗い嵐の夜であった……」で始まっている。It was a dark and stormy night…… 実はこれは英語圏において最も陳腐な小説の書き出しなのだそうだ。 ものの本によれば(と昔ならば書いたところだが、今ではウイキペイアによれば)、英国ヴィクトリア朝の作家エドワード・バルワー=リトンなる人物の『ポール・クリフォード』という小説がこういう書き出しで、それが陳腐の典型ということになったらしい。〔…〕 カリフォルニアにあるサン・ジョゼ州立大学は「バルワー=リトン小説コンテスト」を主催している。「暗い嵐の夜であった……」で始まる短篇を募集し、その中から最も陳腐な最悪のものを選んで賞を出す。 |
●嵐の夜の読書|池澤夏樹|みすず書房|ISBN:9784622075332|2010年04月|評=○
<キャッチコピー>
「こういう本はタイトルがむずかしい。その時々、目の届く範囲にある本を手にとって、読んでみて、おもしろければ書評を書く。本を読むことが好きな男が読んだ本の感想を述べているだけのことで、この男と似た趣味の方がいらしたら参考にしていただきたいというに尽きる。書評に権威はいらない」(あとがき)
<memo>
1999~2008の毎日新聞「今週の本棚」欄に掲載の書評をあつめたもの。先日バラエティ番組で著者の娘さんが出ていて、「私の父は、北海道、沖縄、フランスにも自宅があります。祖父はモスラの原作者です」と自慢していた。福永武彦(=加田伶太郎)も忘れられていくのか。
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