高樹のぶ子●花迎え
何の気まぐれかハイテンションにまかせて、突然決心したのだ。 この人の本は、多分、生涯に1冊も読むことはないだろう――と思う本を、1冊だけ買ってみようと決めたのだ。 そう決心して書店に行くと、何と驚いたことに、生涯に1冊も読むことはないタイプ(著者)の本が、書店には溢れていた。〔…〕生涯無縁なはずの本が、手の中にたちまち10冊になった。〔…〕 そして一番嫌いなはずの本は、私にとってショックだった。バチンと頬を叩かれた気がした。私がなぜこの著者の本を嫌いだと思ってきたか、その理由とともに、私自身の姿がはっきりと見えた。 漠然とした苦手意識を越えたところに、新しい自分へ向いそうな、小さな穴があいていた。これは喜びを越えて快楽と呼べる体験。 相思相愛の相手だけに満足していては、異郷には入りこめないのかもしれない。たまには、苦手な著者の本、全くタイプではない本にも手をのばしてみよう。思いがけない快楽が待っているかもしれないもの。 ――「嫌いなはずの本」 |
●花迎え|高樹のぶ子|小学館|ISBN:9784093881029|2010年03月|評=△
<キャッチコピー>
恋愛と戦争、旅と読書。世界を丸ごととらえた10年ぶりのエッセイ集。
<memo>
「年を重ねると思慮深くなる、というのは嘘だ。むしろ短慮になるのではないだろうか。思慮深く考えたところで、結果に大差はないことも、どこかで学んでしまっている」(「通販のワンピース」)
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