池内了/ワタナベケンイチ・絵●パラドックスの悪魔
生きているということは、必ず死を伴っています。〔…〕 髪の毛が新しく生えてくるとともに古い毛が抜け、日々更新されています。細胞を作る原子は、短いもので三日、長いもので一カ月くらいかけて入れ替わっています。〔…〕 要するに、生命体は原子の乗り物であって、新しい秩序の生成(生)と古い秩序の消滅(死)が絶えず拮抗して起こっているのです。パラドックスの極みと言えるでしょう。やがて、消滅の方が生成過程に勝ると生命体の死になるというわけです。 このパラドックスを担っているのが「アポトーシス」と呼ばれる、遺伝子に書き込まれた死の指令です。ある段階になれば細胞は死ななければならないと遺伝子に書かれており、それに従って細胞は自殺するのです。 そのような死があるからこそ、生が円滑に営まれることになります。 腫瘍となったガン細胞は、いわば自殺を拒否した細胞で、ずっと生き続けようとします。 そのためますます腫瘍細胞が増殖して生の論理を全うしようとして、かえって生体そのものの死につながるのです。ガン細胞はパラドックスの見本と言えるでしょう。 |
●パラドックスの悪魔|池内了/ワタナベケンイチ・絵|講談社|ISBN:9784062162562|2010年05月|評=△
<キャッチコピー>
悪魔のささやきがおもいがけない発見につながる?!科学との出会いのきっかけになる新しい科学読み物。論理力を磨く知的ゲーム。
<memo>
古代ギリシャのパラドックス、レトリックのパラドックス、物理学のパラドックス、生命世界のパラドックス、現代社会のパラドックスなど、パラドックス入門書。
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