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2010.07.08

乙川優三郎●麗しき花実

20100708otokawauruwashiki

「蒔く以外に能がないのはみんな御同様さ」

「祐吉さんは茶の湯も俳諧もします、蒔絵だけの人ではないでしょう」

「茶は慰めで、発句は苦痛だよ、能があるからやっているわけじゃない」 

「人間を磨いても蒔絵はよくなりませんか」

「ならないね、出家して技芸が上達するならそうするが、安閑とした暮らしから新しいものは生まれない、誰も思いつかない技法や美しい意匠は破笠(はりつ)のように山野を這いずり回って探すのが本当だろう、創ることを生業にしながら、小さな殻の中に安居して何が生まれるだろうか」

祐吉は青ざめた酔いのうちから想いを吐き出した。彼の理想は蓬頭垢衣(ほうとうこうい)のさすらい人となって蒔絵の旅に出ることであった。江戸の喧騒に紛れていても漂泊者の彼は夜の巷をさまよい、何ができるか、とつおいつ思案している。金銀の華飾に疲れて、休らう場所を求めているとも言えた。

●麗しき花実|乙川優三郎|朝日新聞出版|ISBN9784022507242201003月|評=○

<キャッチコピー>

原羊遊斎、酒井抱一、鈴木其一など実在の人物の間に虚構の女性主人公を泳がせ、女性の眼から見た蒔絵職人の世界や出会った人々、そしてやるせない恋心を描いた渾身の力作。

<memo>

実在の絵師・蒔絵師を登場させ、蒔絵師の修行をする虚構の主人公理野の愛憎と江戸職人の世界を淡々と描いた長編。上掲の「破笠」は小川破笠のこと。江戸時代の漆細工師家、俳人で芭蕉の肖像画が残っている。本書は平板でストーリー性に乏しい。

乙川優三郎●逍遙の季節

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