岡崎満義●人と出会う――1960~80年代、一編集者の印象記
作家・有馬頼義さんの奥様である。〔…〕 「うちの旦那の思い出? 困ったなあ。旦那、いい人でした。ひと言でいえばそれだけ。十五、六歳のときに知り合ったのね。 あの頃は花柳界で遊ぶことが男の誇り、まあステイタス・シンボルでもあったわけで、旦那のお父さま(有馬頼寧氏・元農林大臣) がカフェなんかより、新橋、赤坂のそういうところがお好きな方だった。 そんなところから、旦那も花柳界に足をふみ入れたんでしょう。お父さまはそりゃいい着物を着てもうお見事、お父さまの方に先に会ってりゃよかったと思うぐらい、素敵でしたよ」〔…〕 「旦那の夢は、一盗二婢三妾四妻、だったわけで、それを全部果たしてから死んだんだから、いいんじゃないかしらね」 ――「有馬千代子-旦那、いい人でした」 |
●人と出会う――1960~80年代、一編集者の印象記|岡崎満義|岩波書店|ISBN:9784000245036|2010年05月|評=○
<キャッチコピー>
元「文藝春秋」編集長が語るとっておきの逸話集。学者・作家・芸術家など38人の人間万華鏡。
<memo>
2009年10月、朝日新聞「ニッポン 人・脈・記」の「お殿様はいま」シリーズで旧久留米藩21万石、有馬家16代当主の有馬頼央氏が登場し、父の頼義について、「祖父をはじめ、家のあらゆるものを否定しようとした父に反発し、父が否定したものを大切にしよう思うようになった」、そんな嫌悪感から、父の小説を一度も読んだことはないが、作家有馬頼義とそろそろ向き合う時期が来ているのではないか、と語っている。有馬頼義の不憫な晩年を思うにつけ、本書の千代子夫人のあっけらかんとした談話は、ファンのわたしにとって救いだった。一盗二婢三妾四妓五妻の「妓」が抜けているのは、夫人への著者の配慮か。
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