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2010.08.18

川口有美子●逝かない身体―― ALS的日常を生きる

20100818

実際のところとてもたくさんのALSの人たちが死の床でさえ笑いながら、家族や友人のために生きると誓い、できるだけ長く、ぎりぎりまで生きて死んでいったのである。

だから、あえて彼らのために繰り返して何度も言うが、進行したALS患者が惨めな存在で、意思疎通ができなければ生きる価値がないというのは大変な誤解である。

病人のなかには、自分では生きる意味も見出せず、呼吸する動機さえ乏しくなっていく者もいる。しかし、生きる意味は「他者」によって見出されるものでもあろう。〔…〕

母はまっすぐに死に向かっているわけではなく、むしろ生きつづけて私たちを見守るために、途切れなく続く身体の微調整と見守りのための膨大な時間を求めてきた。

それは到底、父と妹と私の3人だけで担いきれる仕事ではなかったが、運よく大勢の人たちと分かち合えたおかげで、蜜月のような療養生活は発症から12年間にも及んだのである。

そうは言っても私たちは、生きつづけると決めた母の奴隷のようだったし、人の都合など考えもしないで要求ばかり繰り出すALS患者は究極のエゴイストなのかもしれない。

●逝かない身体―― ALS的日常を生きる|川口有美子|医学書院|ISBN9784260010030200912月|評=◎おすすめ

<キャッチコピー>

言葉と動きを封じられたALS患者の意思は、身体から探るしかない。著者の母を支えたのは、「同情より人工呼吸器」「傾聴より身体の微調整」という即物的な身体ケアだった。重力に抗して生き続けた母の「植物的な生」を身体ごと肯定する。

<memo>

ALSとは、筋萎縮性側索硬化症。全身の筋肉が衰えて、最後には呼吸停止にいたる難病。

「医療技術の発達が重症患者から人間性を奪っている」などという想像は間違っている。手足がほとんど動かせない人でも、皮膚の皺一本で世界中と交信できる。指先、眉、頬、唇などどこか1箇所でも微かに動かせれば、そこにパソコンの入力装置の端末を貼り付けてメールを打つことができるのだ。(本書)

渡辺一史★こんな夜更けにバナナかよ

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