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2010.09.09

山平重樹●裁かれるのは我なり――袴田事件主任裁判官39年目の真実

20100909

死刑と決まった判決文を書くのは、熊本の役目とされた。昔から主任裁判官が判決文を書くのが決まりになっているのだという。

熊本はその皮肉に言葉を失った。

たった一人、無罪と確信している裁判官が、他の死刑判決を出している二人の裁判官に代わって判決文を書く。こんなパラドックスがどこにあるというのだろうか。〔…〕

だが、思い直したのは、むしろ、これを利用してやろう、無罪と確信した裁判官がいたんだという証を、時限爆弾のように判決文のなかに埋めこんでやろうと決心したからだった。

それが「付言」となって書きこまれることになるのだが、どっちにしろ、結論は「死刑」と決まった判決文であった。自分の心に背く、苦しくもつらい作業には違いなかった。

合議の前に書いていた360枚に及ぶ無罪の判決文を破り棄て、改めて死刑の判決文を書くために、熊本は自宅で机に向かった。真新しい裁判官専用原稿用紙を広げて、ペンを執る。

●裁かれるのは我なり――袴田事件主任裁判官39年目の真実|山平重樹|双葉社|ISBN9784575302271201006月|評=○

<キャッチコピー>

昭和41年、静岡で起きた味噌工場経営者一家4人惨殺事件。逮捕されたのは、同工場従業員の袴田巌だった。袴田は自白するが、裁判では一転、無罪を主張。だが、判決は死刑。しかし、その後、主任裁判官・熊本典道から「袴田君は無罪だ」との衝撃的なコメントが……。日本の裁判制度の在り方を世界に問う問題作。

<memo>

上掲判決文の「付言」部分――。

「本件の捜査に当って、捜査官は、被告人を逮捕して以来、専ら被告人から自白を得ようと、きわめて長時間にわたり被告人を取調べ、自白の獲得に汲々として、物的証拠に関する捜査を怠ったため、〔…〕。このような本件捜査のありかたは、『実体真実の発見』という見地からはむろん、『適正手続の保障』という見地からも、厳しく批判され、反省されなければならない。本件のごとき事態が二度と繰り返されないことを希念する余り、敢えてここに付言する」

尾形誠規●美談の男――冤罪・袴田事件を裁いた元主任裁判官・熊本典道の秘密

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