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2010.10.14

中井久夫●私の日本語雑記

20101014

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言語はわかりやすいだけが能ではない。

言語には二つの装置がある。第一は、新しい語彙を、自己のシステムを温存しつつ食欲に取り込む装置である。もう一つは、他言語の圧力に抗して自己を防衛し、生き残るための装置である。〔…〕

 私見によれば、言語には公共性、開放性も必要であるが、難しさ、複雑さ、取りつきにくさも必要不可欠である。

前者は新しいものを取り込んで自己を豊かにするため、後者は他言語の影響に耐えて生き残るためである。〔…〕

生物が一方で捕食法を発達させつつ、他方では針や刺や毒物や何やかやで武装しているように、英語の複雑な綴り字もわかりにくいイディオムも、ハングルの「パッチム」の難しさも武装である。

日本語の漢語が音訓慣用読みを併せ持つことも、〔…〕「簡単にわかってたまるか」という防壁でもある。

その他どの言葉にもあるあらゆるとっつきにくさも、文化防衛的バリヤーでもある。これがあってはじめて、外来の言語文化を安心して採り入れることができる。

●私の日本語雑記|中井久夫|岩波書店|ISBN9784000257725201005月|評=◎おすすめ

<キャッチコピー>

著者の文章感覚や文章表現の極意ともいうべき日本語の実践的使い方論、著者自身の言語形成にかかわる個人史、外国詩の翻訳経験にもとづく文章論的発見、言語文化・文明論的な巨視的洞察など、全編、著者ならではの創見に富み、刺激的です。

<memo>

「センテンスを終える難しさ」「動詞の活用形を考えてみる」「言語は風雪に耐えなければならない」「生き残る言語─日本語のしたたかさとアキレス腱」「言語と文字の起源について」「日本語文を書くための古いノートから」など、たしかに刺激的なエッセイ

水村美苗◆日本語が亡びるとき――英語の世紀の中で

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