五木寛之●僕が出会った作家と作品――五木寛之選評集
* 佐々木譲さんは警官シリーズですでに一家をなした実力作家である。選考の席では、いまさら直木賞でもあるまい、という空気もあったが、デビュー作から三十一年という、そのたゆまぬ作家活動への敬意をふくめて今回の受賞となった。〔…〕
松本清張さんは「犯罪の動機」に執着したが、佐々木さんは「事件の背景」に注目している。そこが新しい。
北海道の風景や空気感がよく出ているのはこの作家の筆力だろうが、ところどころ古風すぎる表現に引っかかるところもないではない。「破顔した」などという文章である。 しかし、それも作家の個性というか、作風かな、と最近おもうようになった。直木賞らしい受賞作を得た、と言うべきだろう。〔…〕
(右の選評中、「廃墟に乞う」に関する部分で「破顔した」という引用がありますが、これは私の記憶ミスであって、他の作品の中の表現です。
掲載時の原文のまま再録しますが、訂正して著者にお詫びします)
――直木三十五賞◆第142回〔2010年1月〕
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●僕が出会った作家と作品――五木寛之選評集|五木寛之|東京書籍|ISBN:9784487805020|2010年09月|評=○
<キャッチコピー>
選ぶ側が試される。文学賞の選考は真剣勝負だ。新人賞、直木賞から乱歩賞、鏡花賞、そして木村伊兵衛賞まで、40年にわたり書き続けた選評の集大成。
<memo>
「この選評集は、私の個人的な私信のようなものなのだ」(あとがき)。直木賞第79回(1978年7月)から第142回まで選考委員をつとめ、上掲の問題で辞めた。『井上ひさし全選評』(白水社|ISBN:9784560080382|2010年03月)も出たが、受賞作以上に選考委員は賞の看板なのですね。
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