佐藤健/毎日新聞取材班●生きる者の記録 佐藤健
* 歩き回る体力もない僕にとって取材の現場は自分の肉体と病床の周辺の風景に限定されるのだが、目下の最大のテーマは「痛み」である。〔…〕 痛みは実にやっかいな代物だ。瞑想や座禅で病への憤りや死への恐れはある程度克服できても、こいつにだけは適用しない。 鎮痛剤の効き目の間を縫って姿を現し心と体をむしばむのだ。 ひとことで「痛み」と言ってもさまざまな顔がある。 絶望的な痛さ、あちこち飛び回ることもあれば、響くような鈍痛もある。心をかき乱すやつもいる。「疼く」「差し込む」「走る」「しびれる」「キリキリ」「ずきずき」「がんがん」「しくしく」……。辞書を引くと書ききれぬほどの語彙がある。 痛みとは祈りや文学をつくるほどに奥深き言葉なのだ。〔…〕 「さて、さらなる痛みはやって来るのか、心の痛みにはどうするか」 そんなことを思いつつまた夜が更けていく。 |
●生きる者の記録 佐藤健|佐藤健/毎日新聞取材班|毎日新聞社|ISBN:9784620316253|2003年03月|評=○
<キャッチコピー>
定年を目前に末期がんを宣告された新聞記者が、最期の一カ月、病床で自らの生を刻々と記した。その日々を伝え毎日新聞で大反響を呼んだ、魂のルポルタージュ。
<memo>
葬儀の祭壇、花ではなく、酒瓶100本が並ぶ(本書の写真)
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