多和田葉子●溶ける街 透ける路
* 牡蠣が有名なアカションには、昔ながらの養殖小屋が並んでいる。 牡蠣は種類別に平たい箱に入れて並べてあった。個数を言うとその場で売ってくれる。開けてほしいと言えば、専用のナイフで開けてくれる。 高校生の頃、モーパッサンの小説を読んでいたら、海辺で生牡蠣を買ってナイフで開けてそのまま食べるシーンがあって、牡蠣はフライや天ぷらにしなくても食べられるのかと驚いたのを今でも覚えている。 生牡蠣を食べていると、海そのものを食べているような気がしてくる。 肉にしみ込んだ海水のしょっぱさには、海を漂って生きた軟体動物たちの記憶が無数に溶け込んでいる。味が舌にしみた瞬間、脳裏に浮かぶあの色は、わたし自身が貝だった時代に見えていた色なのか。 ――「ボルドーⅡ」 |
●溶ける街 透ける路|多和田葉子|日本経済新聞出版社|ISBN:9784532165956|2007年05月|評=○
<キャッチコピー>
揺さぶられる身体感覚。欧州、北米、中東、日本を駆け巡り、自作を朗読し、読者と話した1年。見る、聞く、歩く、触る、食べる。街の表層が裂け、記憶がゆがむ。ベルリン在住の著者が朗読会などで訪ねた街々について書かれた40篇あまりの短いエッセイ集。
<memo>
最近NHKの「世界ふれあい街歩き」という番組をよく見る。案内人が登場せず「自分で街を歩いている感覚」を疑似体験できる。そこで見たシアトルが気に入っていたが、本書では喫茶店と本屋の多い、しかも図書館が魅力的な街として紹介されている。そういえばスターバックスもタリーズもシアトルでした。
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