樋口進・写真/川本三郎・文●小説家たちの休日―― 昭和文壇実録
* 戦前の男はたいてい帽子をかぶった。戦後、男が帽子をかぶらなくなった。理由はいろいろあるが、そのなかに「慎太郎刈り」の流行がある。 男が髪におしゃれをするようになった。そのために帽子が不要になった。 決してうがった説ではない。東京帽子(現オーベクス)の社史「オーベクス百年史」( 93年)にそう書いてある。 昭和30年に石原慎太郎の「太陽の季節」が芥川賞を受賞、翌年、それが映画化されるや「慎太郎刈り」のヘアスタイルが若い世代に新しいファッションとして迎え入れられ、その結果、帽子が見捨てられた、と。 この「慎太郎刈り」に関して、樋口進さんによるとこんなエピソードがある。あるとき三島由紀夫は歌舞伎座のロビーでファンから「慎太郎刈りの真似をしているわ」といわれた。 何よりもオリジナリティを大事にしている誇り高い作家は、これに烈火のごとく怒った。「俺がこの髪型の元祖だ」 ――三島由紀夫 |
●小説家たちの休日―― 昭和文壇実録|樋口進・写真/川本三郎・文|文藝春秋|ISBN:9784163715605|2010年08月|評=◎おすすめ
<キャッチコピー>
写真家・樋口進が秘蔵していた門外不出の写真と、川本三郎による評論。65人の作家の素顔!
<memo>
物故者となった昭和の作家たちのプロフィールを素描した文壇人名事典。一人につき4ページという短文でかろやかにエピソードが綴られている。ときに樋口進のキャプションが川本三郎の本文を食ってしまっている。上掲は三島由紀夫について書かれたものだが、石原慎太郎は唯一人いまも現役である。
| 固定リンク
コメント