吉田修一●空の冒険
* 「ケザンさん、もし宝くじで一千万円当たったら、何が欲しいですか?」と。〔…〕 彼はこう答えたのだ。 「半分はお寺に寄付します」と。 思わず、「残り半分は?」と尋ねると、「残り半分は、来世のために、やはりお寺に寄付します」。 日本にいると、この種の答えがどこか偽善めいたものに聞こえることがある。しかしブータンを二週間も旅したあとだった僕には、彼の答えが素直にすっと胸に落ちてきた。〔…〕 ある村で電気工事の話があったらしい。しかし電気を通すと、ツルが来なくなる。村人たちが出した答えは、「電気はいらない」というものだったという。 選ぶという行為は、とても贅沢なことだと思う。 そしてその選んだ何かに、その人の豊かさが現れるのだと思う。 ――「ポプラジカ、ブータン」 |
●空の冒険|吉田修一|木楽舎|ISBN:9784863240285|2010年09月|評=△
<キャッチコピー>
映画のタイトルのイメージから紡ぎ出される美しく切ない短編小説。旅先で出会った人々や風景を見つめながら、大切な日記のように心のゆらぎや情感を綴ったエッセイ。芸術的な筆致で心の機微を描き出すショートストーリーズ。
<memo>
「ブータンという国は、決して文化的に遅れた国ではない。ほとんどの国民は英語を話すし、インターネットでCNNを普通に見ている。外界を知らずに、ああいう生活をしているのではなくて、外界を知っても尚、ああいう生活を選んでいる国なのだ」(同上)。『あの空の下で』と同様、ANA機内誌『翼の王国』掲載の短編とエッセイ。
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