« ノンフィクション100選★角岡伸彦|カニは横に歩く――自立障害者たちの半世紀 | トップページ | 村上春樹●1Q84 book2 »

2010.12.28

村上春樹●1Q84 book1

201012281q841

*              

運転手は言葉を選びながら言った。「つまりですね、言うなればこれから普通ではないことをなさるわけです。そうですよね?真っ昼間に首都高速道路の非常用階段を降りるなんて、普通の人はまずやりません。とくに女性はそんなことしません」〔…〕

「で、そういうことをしますと、そのあとの日常の風景が、なんていうか、いつもとはちっとばかし違って見えてくるかもしれない。私にもそういう経験はあります。でも見かけにだまされないように。現実というのは常にひとつきりです」〔…〕

「現実はいつだってひとつしかありません」、書物の大事な一節にアンダーラインを引くように、運転手はゆっくりと繰り返した。

「もちろん」と青豆は言った。そのとおりだ。ひとつの物体は、ひとつの時間に、ひとつの場所にしかいられない。アインシュタインが証明した。

現実とはどこまでも冷徹であり、どこまでも孤独なものだ。

1Q84  book1|村上春樹|新潮社|ISBN9784103534228200905月|評=◎おすすめ

<キャッチコピー>

心から一歩も外に出ないものごとは、この世界にはない。心から外に出ないものごとは、そこに別の世界を作り上げていく。

<memo>

*

「なあ天吾くん、才能と勘とのいちばん大きな違いは何だと思う?

「わかりませんね」

「どんなに才能に恵まれていても腹一杯飯を食えるとは限らないが、優れた勘が具わっていれば食いっぱぐれる心配はないってことだよ」

**

184年! 私はこの新しい世界をそのように呼ぶことにしよう、青豆はそう決めた。Qはquestion markのQだ。疑問を背負ったもの。〔…〕

好もうが好むまいが、私は今この「184年」に身を置いている。私の知っていた1984年はもうどこにも存在しない。今は184年だ。空気が変わり、風景が変わった。私はその疑問符つきの世界のあり方に、できるだけ迅速に適応しなくてはならない。新しい森に放たれた動物と同じだ。自分の身を護り、生き延びていくためには、その場所のルールを一刻も早く理解し、それに合わせなくてはならない。

***

老婦人はうつぶせになったまま言った。「そういうことは若いあいだにしっかり楽しんでおかないといけない。心ゆくまでね。年取ってそういうことができなくなってからは、昔の記憶で身体を温めることになりますから

青豆は昨夜のことを思い出した。彼女の肛門にはまだかすかに挿入感が残っている。そんな記憶が果たして老後の身体を温めてくれるものだろうか?

****

「レストランで注文をし終わるたびに、自分が間違った注文をしたような気がするんだ」〔…〕

「問違えたとしても、ただの食べ物よ。人生の過ちに比べたら、そんなの大したことじゃない」〔…〕

「ほんとにろくでもないやつなんだ。根性はせこいし、セックスだってそんなにうまいわけじゃないしさ。でもそいつは少なくとも私のことを怖がったりしないし、とにかく会っているあいだはすごく大事にしてくれるんだ」

「そういう気持ちっていうのは選びようがないことなのよ」と青豆は言った。「向こうから勝手に押しかけてくるものだから。メニューから料理を選ぶのとは違う」

「間違えてあとで後悔することについては、似たようなものだけど」

*****

「歴史の本が教えてくれるのは、私たちは昔も今も基本的に同じだという事実です。服装や生活様式にいくらかの違いはあっても、私たちが考えることややっていることにそれほどの変わりはありません。人間というものは結局のところ、遺伝子にとってのただの乗り物(キャリア)であり、通り道に過ぎないのです。彼らは馬を乗り潰していくように、世代から世代へと私たちを乗り継いでいきます」

|

« ノンフィクション100選★角岡伸彦|カニは横に歩く――自立障害者たちの半世紀 | トップページ | 村上春樹●1Q84 book2 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 村上春樹●1Q84 book1:

« ノンフィクション100選★角岡伸彦|カニは横に歩く――自立障害者たちの半世紀 | トップページ | 村上春樹●1Q84 book2 »