宮本徳蔵●文豪の食卓
* もし自分の寿命が尽きて、あとほんの一回だけで食事を終わらせ、あの世へ旅立たねばならないとしたら何を食べたいか――つまり切羽詰まったグルメの立場に身を置いてみるがいい。〔…〕 この世を去る日、たまたまふるさとにいるとすれば、お世話になりたい場所は志摩観光ホテルの英虞湾を見下ろすベイ・スイートの3階『ラ・メール』。 活きた伊勢海老、黒鮑で鳴らしたレストランだが、すべて遠慮して、鶏卵四個ほどで肉も野菜も何ひとつ加えず、オムレツをシンプルに焼いてもらう。〔…〕 ふだんどおり東京で暮らしているなら、どこがいいか。ここなら躊躇なく、『ホテル・オークラ』の1階、『テラス・レストラン』をえらばせていただく。〔…〕 料理人は腕っこきぞろい。わざわざ指名する必要はない。食べたいのはプレーン・オムレツのみ。出来ばえに凸凹はない。 ――「蛸、鮎の腐れ酢、最後にオムレツ」 |
●文豪の食卓|宮本徳蔵|白水社|ISBN:9784560080979|2010年10月|評=◎おすすめ
<キャッチコピー>
井伏鱒二と鰻、三島由紀夫と酒、埴谷雄高とトンカツ、泉鏡花とウドン……稀代の碩学が流麗な文体とともに、名作の背景に潜む食文化を披瀝する、知的興趣あふれた書き下ろし「美味礼賛」。
<memo>
上掲の「ラ・メール」での最後の晩餐。「おっと、パンだけはぜひとも欲しい。それもパリをしのんで、チーズ入りで熱く焼いたクロック・ムッシュー。いや、男性の精液にどこか似た匂いのそれよりは、女性のあそこを連想させるクロック・マダム」と続く。
| 固定リンク
コメント