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2011.01.21

角幡唯介◎空白の五マイル――チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む

20110121

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私はツアンポー峡谷に裸一貫で飛び込み、命からがら逃げ出した。

その体験が私にとっては特別なものであり、キントゥプに始まる「ツアンポー峡谷をめぐる冒険」という行為の、かなり深い部分を理解できた感触がある。

それでも多くの人はこう問うだろう。なぜ命をかけて、そこまでする必要があるのか、と。

極論をいえば、

死ぬような思いをしなかった冒険は面白くないし、死ぬかもしれないと思わない冒険に意味はない。

過剰なリスクを抱え込んだ瞬間を忘れられず、冒険者はたびたび厳しい自然に向かう。〔…〕

不確定要素の強い舞台を自ら選び、そこに飛び込み、その最終的な責任を受け入れ、その代償は命をもって償わなければならないことに納得しているが、それをやりきれないことだとは考えない。

◎空白の五マイル――チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む|角幡唯介|集英社|ISBN9784087814705201011月|評=◎おすすめ

<キャッチコピー>

チベットのツアンポー峡谷に挑んだ探険家たちの旅を追い、2002年著者は単独で未探検地とよばれた空白の五マイルを踏査することに成功。もう一度訪れたいと2009年再び挑むが、想定外の出来事の連続に旅は脱出行と化す。第8回開高健ノンフィクション賞受賞作。

<memo>

チベットといえば西寧とラサを結ぶ2000キロ、かつ高度5000メートルの青蔵鉄道の旅は、旅行社のパンフレットをみるかぎりまことに魅力的である。同時に毛沢東によって侵略され併合されたつらい歴史を思う。そのチベットにツアンポー峡谷という全長500kmで最大深度6000mの世界一の大峡谷がある。しかも「空白の5マイル」と呼ばれる未踏の地があり、著者が二度にわたって挑戦する。

本書は、ツアンポー峡谷探検の歴史や「若きカヌーイストの死」という挿話をはさむなどみごとな構成で、しかも中国という国のチベットに対する政策的な動き、そしてわずか数年の間に猟に火縄銃を使っていた生活がケータイがあふれる地に変化しているなど、二度の探検の背景も記述する。もちろん本題はスリリングな身も心も凍る探検行である。最後にこう書く。「二回の旅で得られた心の震えはこれ以上ないもので、同じような感動を体験することは、今後の人生ではもう起きないかもしれない。ツアンポー峡谷の旅を終えたことで、私は生きていくうえで最も大切な瞬間を永遠に失った、ともいえるのだ」

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