丸谷才一◎星のあひびき
* かつて綜合雑誌は日本文学の槍舞台であった。〔…〕 最近この種の雑誌でよく見かけるのは、文学的野心も個性的文体もない娯楽読物系の小説で、つまり綜合雑誌は文藝を捨て、手がける領域を狭くし、読者の範囲を限った。 編集長たちは、文学を必要としない人々を読者として選んだらしい。そのはうが多くの部数を期待できるといふ見通しだったのだらう。 しかしその結果、綜合雑誌は痩せ、魅力が薄れた。〔…〕 いちばん困るのは雑誌全体の文学不在のせいで、言葉に実感が乏しくなり、言葉つかひが粗悪になったことである。 昔は後半に、男女愛欲の機微とか、浮世ばなれした文人生活の消息とかが洗練された文章で語られてゐて、それが前半の悪文に苦労したあげくの慰めになったり、硬派の筆者たちを刺激したり教化したりしたものだけれど、今は様子が違ふやうだ。 綜合雑誌がふたたび文学に関心を払ふやうにはならないものだらうか。 ──「文学を忘れた綜合雑誌」 |
◎星のあひびき│丸谷才一│集英社│ISBN:9784087713671│2010年12月│評価=○
<キャッチコピー>
読書の快楽を味わいつくす達人のエッセイ集。ゴシップ・ユーモア・奇想・新説がたっぷり。高級で愉しい快楽の書。
<memo>
確かに。「中央公論」誌などなぜこの作家の小説が連載されているのか理解に苦しむ。おなじみ丸谷ぶし。評論、書評、随筆、推薦および追悼、解説など。
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