辻井喬◎茜色の空──大平正芳
* それから八年ほど経って、ようやく宏池会の会長になり、いずれ総裁選に立候補する時に備えて掲げるべき政策を書きはじめた時、正芳の頭にライシャワーが駐日大使だった時に彼に話した言葉が記憶に蘇ってきた。 筆を止めて正芳は考えた。彼は「前任者の大使から引継ぎを受けて──」と言ったのである。 ということは日本側にも引き継がれるべき、表に出せないアメリカとの約束があるのだと、改めてのように気付いたのだった。 ライシャワーの話は核兵器を積んだ艦船の寄港の話だったが、密約はそれだけなのだろうか。 おそらく核兵器を積んだ艦船の寄港問題は日米安保条約改定にあたって、こっそり決められたのであろうが、それだけでも矛盾するのに、沖縄返還の際、重ねて密約が結ばれたとしたら、表に出ている部分と日米間の密約のねじれはどう解決したらいいのか。 外交に秘密はつきものという主張に一面の真理はあるとしても、ここまで国民の知る権利が無視されていいとは思えない。 |
◎茜色の空│辻井喬│文藝春秋│ISBN:9784163290409│2010年03月│評価=○
<キャッチコピー>
近年再評価の機運が高まっている大平正芳元首相。深い哲学を持ちながら政争に巻き込まれていくその人生を、愛情を込めて描き出す決してスマートとはいえない風貌に「鈍牛」「アーウー」と渾名された訥弁。だが遺した言葉は「環太平洋連帯」「文化の時代」「地域の自主性」など、21世紀の日本を見透していた。
<memo>
たしかに首相のとき評価は高くなかった大平や小渕の再評価の機運が高まっている。ともに現職の総理として突然の病いに倒れた。
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