団鬼六◎死んでたまるか
* やっと女というものの良さ悪さがわかってきた時、また、人生の快味がわかりかけて来た頃、こちらは男としての賞味期限がとっくに切れて、老朽物質化して溌剌とした緑色の世界からはみ出したところに立っている……こんな哀しさは八十近いおじんになってみなきゃ、わかるまい。〔…〕 喜寿を通り越し、これまで自分が嫌になる程、官能小説を書きなぐって来た私が、今になってこんな事をいうと、人に笑われそうだが、 未だに女性の正体というものがはっきりわからないのだ。 いい換えれば女性によって真の快楽を得たという経験がないという事になる。永遠の女性とは空想の中だけに存在するものだと思っていた。 いや、女性だけではなく、人生そのものがろくにわかっちゃいないのに何十年も小説を書き続けて来たおぞましさを今になって感じる事がある。 ──「第19話 瘋癲老人」 |
◎死んでたまるか── 自伝エッセイ│団鬼六│講談社│ISBN:9784062165525│2010年11月11日│評価=○
<キャッチコピー>
酒と女と将棋に彩られた無頼な人生を、軽く面白く哀しく描ききった最初で最後の連作自伝エッセイ。出会ってきた友人知人たちの生と死、自身のガン闘病も飄々と笑い飛ばす。「最後の文豪」が綴り続けた恥多き哉人生。
<memo>
著者にはたしか「蛇のみちは―団鬼六自伝」という著書があったはずだが、と思って本書を手にしたら、これは自伝ではなかった。名品エッセイを集めたもの。団のエッセイは何度読んでも楽しい。「大体、エッセイというものは人生とか、真理を追究するものではないと思っている。また、文学でも大衆文学でもない。読者の人生に対する好奇心をくすぐるのが目的だけの単なる娯楽感想文だと思っている」とあとがき。団鬼六、2011.5.6胸部食道がんで死去、79歳。ひと月前の4月10日屋形船を借り切り浅草まで隅田川を上る花見を主催したという。
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